乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

卒業式当日に、牛乳の値段を考える

おばんです。

今日は大学の卒業式。これから、札幌のホテルで卒業パーティーです。

私が指導するルミノロジー研究室は7人の卒業生を送り出しました。みな、それぞれの進路へ巣立っていきます。企業に勤める者、海外へ留学する者、実家に戻って牛飼いをする者、道内、道外、様々です。これからは、社会の厳しさにもまれることになるけど、社会人になって自立した大人になることは厳しさだけではなく、学生では経験できない楽しみや幸せもあることを知ってほしい。

仮に、これから学生時代に戻れると言われても、私は戻るという選択をしないと思う。なぜなら、若いときには経験できない40代の幸せを満喫しているから。

みんなには、学生時代懐かしむのではなく、これからの人生を満喫してほしい。

 

今日は酪農経営にとって最重要な牛乳のお値段について考えてみましょう。

 

農家は牛乳を売っていくらもらえるの?

「酪農スピードニュース(3月10日および3月13日付)」によると、3/10にホクレンが乳製品向けの生乳6万トンの入札をおこない、平均単価は97円67銭だったと報じられた。これは同紙によると「異常高値」である。

今回の入札価格は飲用乳向けではない。ホクレンの飲用向け乳価は117円40銭とのこと。

※ここでいう乳価は酪農家の牛乳売価のこと。我々消費者向けの小売価格ではない。

 

牛乳単価はここ数年うなぎ登りに上昇している。

私の記憶が正しければ、学生時代や十勝の酪農場で働いていた20年前は牛乳が余っていて、70円台/kgだったはず。搾っても売れないものだから、生産調整といって、乳牛を売って出荷乳量を減らしたり、搾った牛乳を食紅を入れて捨てたなんていう話も聞かされた。

 

それが、今では農家戸数の減少と、それに伴う生乳生産量の減少で牛乳の奪い合いの様相を呈している。

 

皆さんの地域では、牛乳パック1本はどのくらいの値段で売られているだろうか。

札幌では成分無調整の牛乳で170~200円前後、低脂肪やそれに準ずる脂肪を落としたもので150円程度だろうか。

都府県では、一本200円を超えているかもしれない。

 

一時は水よりも安いといって酪農家が嘆いていた牛乳。
この先、高嶺の花で高級品となる日が来るかもしれない。

 

酪農は乳価の上昇などビジネスとしては今が追い風。
酪農家にはがっぽり稼いでもらい、投資してウシを増やし、生乳生産量を増やしてもらいたい。

 

酪農家が稼ぐと、エサ屋さん、酪農機械屋さん、牛舎などの土建屋さん、獣医や資金融資のための金融業、その他多種多様な産業も活性化する。
酪農業は多くの雇用を直接的、間接的に生み出すので、酪農家が稼げば地域自体が盛り上がる。

 

今年の泉ゼミの卒業生も、酪農家出身の学生が5人もいる。
まっすぐ実家に戻るのはそのうちの男子学生一人であるが、残りの4人もゆくゆくは家業を継ぐことになるだろう。
彼らが地元に戻れば、地域の酪農家を引っ張るリーダーとしてがんばってもらいたい。そして、ばりばり稼いで地域の経済を盛り上げてもらいたい。立派になった彼らを訪ねるのは、私の幸福なライフワークなので今から楽しみ。

 

牛乳単価の上昇は、我々消費者やメーカーにとっては頭の痛い話だが、農家が位置する地方が盛り上がるという意味では悪い話ではないだろう。

 

私たちは目先の利益やコストに目が行きがちだが、大局的にとらえると身銭を切ることも大切だと思う。

ウシの栄養屋が、素人目線で経済を語ってみました。

さーて、これからうまいビールを飲みにいくとしますか。

 

↓写真はある日の朝弁当。ヨーグルトは好調な乳製品需要を牽引しています。