乳牛と酪農を科学する

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乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

ヒトが草を食べるとどうなるのか??

 

 先日のエントリー「エサとサプリ、どちらが良いのか?」を書いて、妻に読んでもらいました。書き慣れていないので、コメントをもらいたくて(^^ )

 

 そうしたところ、妻からは「まあいいんじゃないの」との温かいお言葉をいただきましたが、会話の中で、「じゃあヒトが草を食べたらどうなるの?おなかの中で詰まっちゃうの?」という疑問が投げかけられました。

草、食べたことあるヒトっています??

泉は、草を食べたことがありません。ヒトが草を食べたらどうなるかを考える前に、牛が草を食べられる仕組みについて考えてみましょう。牛には第一番目の胃、ルーメンがあるというお話しを以前しました。

 

 

ルーメンの中には微生物がたくさん生息していること、それらの微生物が牧草の繊維質を分解してくれることについても述べました。それでは、ルーメン微生物はいったいどれくらいたくさんいるかといいますと、色々な微生物がいるのですが、細菌でみるとルーメン液1ml中に10の10乗個は存在しているといわれています。10の10乗とは・・なんと100億個(匹?)です!!

私も学生実験などでルーメン液を1滴垂らして顕微鏡観察する機会がありますが、そこでは細菌より大きな原虫をみることができます。原虫は目をこらすと肉眼でも見えるくらいの大きさですが、それはそれは元気に泳ぎ回っているのが観察できます。

この泳ぎ回っている微生物たちは、何も楽しく泳いで遊んでいるわけではなく、せっせとエサを探しているのです。エサを食べた微生物は、分裂を繰り返してドンドン増殖します。イメージが湧きやすいように微生物がエサを食べると書きましたが、エサを分解する、エサを消化する、エサが発酵する、エサが消化される、といった表現も同じ意味になります。今後も出てきますが、混乱しないでくださいね。

 

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牛は草を消化できない

牛が食べた牧草は咀嚼されて飲み込まれて、ルーメンの中に流れ込んできますが、微生物によって分解されることになります。言い換えると、牛は微生物の力を借りないと、草食動物のくせに食べた草を消化できない、ということになります。これって、とても興味深い仕組みです。ヒトは栄養を自分の力で体内に取り込みます。すなわち自らの出す消化酵素で、食べ物を消化・分解して、吸収し、栄養源にしています。

泉は学生時代に、牛をはじめとする反芻動物(胃が4つある動物)がこのような栄養獲得システムを持っていることを学び、おもしろくて、フシギで、のめり込み、やがて今にいたったということになります。研究の醍醐味です。

このように牛の消化を助ける微生物たちですが、やがて悲しい運命が訪れます。

これについては、また日をあらためて解説します。

 

それで、結局ヒトが草を食べるとどうなるの?

食べる量にもよるでしょうが、牛のように主食として食べると、胃腸の中で草のかたまりが詰まってしまうのではないでしょうか。牧草の繊維含量は高いものだと乾物中で70%くらいになります。その一部は、強力な胃酸で多少分解されるでしょうが、残りのほとんどが全く消化できないとなると、腸管内でたまってしまい、便秘状態になってしまうと推測されます。

その他の成分、たとえばタンパク質や糖分も牧草には含まれていて、こちらはヒトが食べても消化可能です。一般的な牧草だとタンパク質含量は生草中で3%くらい含まれます。成人男子が1日に必要とするタンパク質は60gなので、牧草から必要なタンパク質をとろうとすると2kgの生草を食べなくてはいけません。

こりゃムリですね。。。

 

草だけ食べてヒトが生きていくのに必要な栄養素を摂取するのはムリというのが、本日の結論でした。