乳牛と酪農を科学する

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乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

酪農家の労働時間

 

昨日、ゼミ学生の1人と面談をしました。3年生のこの時期に、卒論と進路について話しを聞くために毎年実施しているものです。

 

H君は真面目な好青年で、実家は近郊の街で酪農経営をしています。卒業後は家業にすぐ入るか、一旦外で働くか、検討中ということでした。多くの外部雇用を実施していない家族経営の酪農場がそうであるように、彼も実家の経営の戦力になっています。毎朝、家の手伝いをしてから登校するという、今時では考えられない頑張り屋の学生です。

 

酪農家は忙しいイメージがあるでしょうが、実際のところどうなのでしょうか。

 

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酪農家の労働時間をサラリーマンと比較する

 

今日は酪農家の労働時間について考えてみます。

酪農家とサラリーマンの労働時間を比較してみましょう。

 

サラリーマンの年間労働時間モデル


1年365日で、建前上は年間休日120日が基本になっています。休日が多いような気がしますが、年間52週に土日の2日をかけると104日になります。これに祝日や、盆正月をたすと120日は妥当な数字といえそうです。
→勤務日は、これらの引き算で245日となります。

 

1日8時間勤務として、245日×8時間=1960時間となり、これがサラリーマンの年間の労働時間の一般的なモデルになります。(実際はもっと働いている方がほとんどでしょうが、あくまでも計算上のモデルになります)

 

酪農家の労働時間はどれくらいでしょうか。


ここに一つの論文があります。
「酪農経営の過重労働と対応策の特徴」(志賀、1994)

 

少し古いですが、酪農場の現場を調査した実際のデータが記載されています。


そこでは、酪農家の年間労働時間が2500時間前後で、上限は2700時間という結果が示されています。

 

サラリーマンと同じ日数の勤務ならば、
2700時間/245日=11.02時間/日
となります。
1日11時間労働!

 

ウシという生き物を飼っている酪農家には、ほとんど休みがありません。休みをとるための手段として、酪農ヘルパーという作業の外部委託制度があります。しかし、月に1~2回の利用が限度で、かつ1回の利用料も安くはありません。酪農家は、お金を払って休みをとるのです。

 

以下、長くなりますが論文から引用します。 

「2700時間は1日7時間20分以上の労働を365日無休で続ける作業時間である。酪農経営の労働時間は肉体的限界に近い作業時聞の水準にあると考えられるのである。ちなみに、他産業との比較を「労働時間白書」でみると、1989年の製造業の年間労働時間は日本2159時間、アメリカ1957時間、イギリス1989蒔間、西ドイツ1638蒔間、フランス1646時間であり、「欧米諸国に比べて200~500時間程度長い」と指摘されているが、この長いといわれている日本の労働時聞より酪農経営の労働時間は長いのである。
 このように飼養頭数の増加を図ってきた酪農経営の労働時間は極めて長時間におよび、それは”働き蜂”といわれる日本の社会的水準より長く、その長さは肉体的に限界的な状況に差し掛かっていると考えられるのである。」

 

現在は、大規模法人経営にして雇用労働力を確保する酪農経営も増えてきています。スタッフがシフトを組んで働くので休みは取りやすくなりますが、ウシ1頭あたりの作業時間が短くなるわけではありません。

 

酪農は儲かる職業ですが、労働時間の面では厳しい仕事といえます。