乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

乳牛のエサ設計:タンパク質の3

おばんです。

今日は次男との空手教室。またもや全身バッキバキです。入門したてにもかかわらず、仮初段扱いにしてもらえて黒帯が届きました。高校以来の空手再開で動きはさび付いていますが、先に入門し10級からこつこつと昇級している皆さんに申し訳ないので、人一倍努力しなくてはいけません。

がんばらねば!

 

さて、今日でタンパク質栄養の3回目です。予定では今日ともう1回を考えています。小難しいですががんばりましょう。

 

微生物はウシにとってタンパク源

今回は、ウシのタンパク質栄養で最も重要かつユニークなメカニズムを紹介します。

微生物たちにとってルーメン(第一胃)はとても快適なパラダイスです。温度も適度、水分もたっぷりあり、エサはウシがどんどんと送り込んでくれる。
快適なルーメンで、微生物たちは増殖を繰り返し、どんどん増えていきます。

一見平穏な毎日を過ごす微生物ですが、彼らにはその後恐ろしい運命が待っています。。。

どのような運命かといいますと、増殖したルーメン微生物は、エサやルーメン液と一緒に下部消化管に流れてしまうのです。ルーメンが第一胃なので、第二胃、第三胃、第四胃、十二指腸・・・と言った順になります。

映画やアニメで、川に投げ出された主人公が流されて行って滝に落下する、あんなイメージになります。
たいていのストーリーでは、主人公は下流で善意の村人に助けられますが、哀れな微生物に手を差し伸べてくれる親切な村人はいません。
第四胃は、ヒトの胃に相当します。胃からは強力な胃酸が分泌されますので、第四胃に入ったとたん、微生物はあっという間に死んでしまいます。

ちなみに、胃酸は良くできた防御の仕組みで、ヒトの場合もこの殺菌作用のおかげで多少バッチイものを食べても腹痛を起こさずに済みます。

 

↓写真はウシのルーメン液です。食べているエサによって胃液の色や中にすんでいる微生物の種類が異なります。

f:id:dairycow2017:20170311214807j:plain

 

「牛は肉食動物?」

 

第四胃で死んでしまった微生物は、それ以降の消化管でエサ中のタンパク質と同様に消化・吸収されてしまいます。

これは妙だと思いませんか。

ウシは草食動物ですよね。

それなのに、微生物という生き物からタンパク源を得ていることになります。微生物といえど生物ですから、ウシは動物性タンパク質を栄養源にしていることになります。


今は亡くなってしまった先輩教員が、講義の冒頭に「ウシは肉食動物である!」と言って学生を惹きつけていたことが思い出されます。

見方を変えると、ウシはエサを食べるけど、自分のためではなくルーメンで飼っている微生物たちにエサを与えているととらえることもできます。まるで、ルーメンという「養殖場」で微生物という「魚」を育て、増えたら自分で食べてしまうようです。微生物を養殖するためにルーメンという快適な環境を整備してやっているようなものです。

 

※酪農の現場で、飲水環境の重要性が指摘されます。水槽をきれいにしよう、と。これは、ウシに水をたくさん飲んでもらうためですが、実はルーメンの微生物生息環境を整えるという意味合いも強いです。たくさん水を飲めば、ルーメン微生物もどんどん増殖し、ウシにとっての貴重なタンパク質源となります。


こうみていくと、ある意味で「ウシは肉食動物」というセリフも腑に落ちますよね。