乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

腸内細菌とルーメン細菌、どちらも健康や免疫を改善する

 

みなさん、おばんでした。
明日からのワークショップのために、帯広に前日入りしました。


寒い、寒い。
明日は一ケタ代の気温とのこと。ダウンジャケットを引っ張り出してきて着てきました。

 

晩ご飯は少しへんぴなところにあるラーメン屋で、中華チラシとラーメン、生ビールです。ここ最近は、帯広に泊まるときには定番になっているお気に入りのお店です。

 

さて、ホテルに戻ってから興味深いテレビを観ました。
教育テレビでやっていた「あしたも晴れ!人生レシピ」です。

テーマは腸内細菌です。

 

その前に。。。

国立科学博物館大英博物館の特別展示

 

裏番組でやっていた、イギリスの大英博物館の特集番組もおもしろかった!

先日、息子と見学に行った国立科学博物館で、現在、大英博物館が特別展示されているそうです。番組では、ダーウィンをはじめとする教科書でもお目にする有名な標本が多数紹介されていました。

 

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ダーウィンは進化論を証明するために、自分で飼っている形質の異なる鳩を掛け合わせて、全く別の形質に変化させることに成功した。独力で進化を実現したのである。その鳩の骨格標本大英博物館に展示されており、今は国立科学博物館に来ている。


大英博物館には理科の教科書で超有名な始祖鳥の化石がある。始祖鳥は羽が生えているが、歯があり、長らく恐竜なのか鳥なのか論争がつきなかった。

始祖鳥は世界で12体しか出ていない。今回の始祖鳥はドイツのコレクターが持っていたものを大英博物館が購入した。そのドイツ人は娘の結婚披露宴の資金を得るために手放したとか。現在は始祖鳥は鳥の祖先であることが確定している。
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こういうのをみると、東京をはじめとする大都市は文化や教養を刺激する場所やものがとても充実している事が分かります。札幌にはこんな立派な施設はないです。
うらやましい!

国立科学博物館の展示。始祖鳥ではありませんが・・・

さて、腸内細菌です

 

腸内細菌には善玉菌、悪玉菌、どちらにも作用する日和見菌が存在します。

それぞれの代表選手は次の通り。
善玉菌:ビフィズス菌
悪玉菌:ウェルシュ菌
日和見菌:バクテロイデス

 

番組冒頭では、腸内細菌がつくり出す短鎖脂肪酸というものが紹介されていました。これは、私が専門とするウシの第一胃(ルーメン)に生息する微生物たちもつくり出す物質で、人もウシも同じなので画面に食い入りました。

 

短鎖脂肪酸の絶大な効果を示す興味深い実験が紹介されていました。

 

全く体重の同じ2匹のマウスを用意します。2匹に与える基本飼料として高脂肪含量のエサを用意します。片方にはそれをそのまま与え、別の一匹には高脂肪のエサに短鎖脂肪酸を混ぜて与えます。

 

そうして2週間後。

 

基本飼料のみを与えたマウスは体重が増えて27gに、短鎖脂肪酸を混ぜて与えたマウスの体重は横ばいで23gでした。わずか2週間でこんなに差が開いてしまったのです。

摂取カロリーが同じでも太らない。何もしなければ太るようなオーバーカロリー飼料でも短鎖脂肪酸を合わせて摂取すると太らない!

短鎖脂肪酸は脂肪燃焼・分解を促進する働きがあるようです。こんな高機能な短鎖脂肪酸ですが、腸内細菌がつくり出します。

 

短鎖脂肪酸を増やすのはビフィズス菌とバクテロイデス。
ビフィズス菌を増やすにはヨーグルト、オリゴ糖を含むゴボウやタマネギが適していて、バクテロイデスを増やすにはらっきょう、寒天、エン麦など水溶性食物繊維を含むものが好ましいそうです。
ルーメン微生物にも繊維を好むものが多く、それらの多くは短鎖脂肪酸を産生し、ウシの栄養・健康状態を改善します。ヒトの腸内環境とウシのルーメン環境は共通項が多そうです。

おもしろい!

 

残念な点が一点ありました。

番組中では短鎖脂肪酸の種類までは触れられていませんでした。短鎖脂肪酸には、酢酸、プロピオン酸、酪酸・・・といくつも種類があり、その機能や産生する菌はまちまちです。この辺について解説があると、より一層理解が深まったと思います。

 

その他にもいくつかトピックスがありました。

経口で摂取する菌をプロバイオティクスといいますが、これらは腸内では定着しないそうです。飲み続ける必要があるのですね。

 

ただ、プロバイオティクスが腸管を通過していく過程で、元々棲み着いている善玉菌を活性化し、悪玉菌の生成を抑制するので、効果は大きいそうです。

定着している善玉菌を増やすためには、ヨーグルトなら1日300gは摂取したいそうです。

この辺のお話しは、腸内細菌の権威、理研の辨野先生が解説してくれました。

 

短鎖脂肪酸の一種である酪酸は腸管の粘膜を健康に保つことで、免疫を改善する働きがあります。

辨野先生は、日本全国の長寿地域を調査して、そこにお住まいの高齢者から便を採取して、菌の種類を解析してきました。

その結果、長生きのお年寄りにはビフィズス菌酪酸生成菌の比率が高いという共通点が観察されたそうです。その結果を受けて、辨野先生はビフィズス菌酪酸生成菌を合わせて“長寿菌”と命名していました。

発酵食品や繊維質を多く摂取することで長寿菌を増やせるそうです。

 

私はルーメンの微生物を最適化することをイメージしてエサ設計を組みます。

ヒトも腸内細菌を最適化する栄養設計が大切であることが示されました。ヒトもウシも理屈は一緒なのが、長年ルーメン微生物をイメージしてエサ設計をしてきた自分には興味深かったです。

 

いやあ、栄養って本当におもしろいですね!