乳牛と酪農を科学する

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乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

牧草の収穫から考える:人の意見に流されることのメリット

道央圏でも、牧草の収穫が始まりました。

写真は本学圃場の今日の様子です。向こうに見えるのはサイロの形をしたバス停です(^^)

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以前も書きましたが、北海道では牧草の収穫は同一圃場から年に2回というのがメジャーです。今回は1番草です。

 

dairycow2017.hatenablog.com

 
牧草は早く刈れば刈るほど栄養価が高く、ウシにとって良いエサになります。
しかし、若い牧草は丈が低く、収穫量は少ないです。
ここに農家のジレンマが生じます。

 

自分の農場で飼っている牛の頭数に対して畑の面積が狭い場合、農家としてはエサである牧草の収穫量を多くすることを優先します。
そうすると、刈り遅れになります。牧草が刈り遅れると、草丈は高く収量も多くなりますが、栄養価は極端に低くなってしまいます。

 

栄養価=消化のしやすさ

 

単純にいうとこのような関係が成り立ちます。

栄養価の低い牧草は消化がされにくいので、食べても糞になって排泄される割合が高くなります。せっかく苦労してエサを収穫しても、そのエサのかなりの部分が牛乳に変わらずに糞になって捨てることになる。これほどムダなことはありません。

 

一方で、栄養価の高いエサは、その大半が消化・吸収され牛乳生産にも利用されます。糞としてムダになる量も少なくなります。しかし、狭い面積では、年間通して牛に給与するだけの「量」を確保できないという問題が浮上します。

 

ここで発想を変えて、牧草の年間の生長サイクルを考えてみます。

草は収穫すると、1ヶ月半~2ヵ月くらいでまた元通りの草丈に生育します。
庭の芝生などは刈っても刈ってもすぐ伸びますよね。
我が家の猫の額の芝生でさえも管理が面倒です。私以外は誰も無関心ですので(^^;)

 

北海道の一般的な収穫回数は2回ですが、最初の刈り取りを早くすると、2回目が7月前半になり、晩秋に3回目の収穫が可能になります。こうして早刈り早刈りで攻めると、ひょっとすると4回刈りも夢ではありません。

そうなると、高栄養を狙って早く刈ることのデメリットである「量」を、刈り取り回数を増やすことで補うことができます。

 

牧草は機械や労働力を使って収穫をするので、刈り取り回数を増やすことは経費もかさむことを意味します。実際、多回刈りを農家さんに勧めても、多くの場合は「収穫もタダでないんだよ」といって否定されます。


しかし、糞となって捨てるエサを作るというムダなコストを考えると、「早刈り×多回刈り」はあながち損でもありません。

 

オホーツク地方の私の知人の酪農家さんが、「4回刈りに挑戦したい」と熱く語ってくれたことを思い出します。

 

今回は牧草収穫でしたが、発想を転換してブレイクスルーをする、そういった機会は世の中にゴロゴロ転がっています。
それをキャッチできるかどうか、キャッチする気持ちがあるかどうか、それがその後の人生を豊かにするかどうかを決定づける、最近の私はそう考えます。