乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

乳牛は何歳まで生きるんですか?:ウシの寿命は生産年齢

私は小学生のような子供たちに酪農についての講義をするときがあります。
そのときに良く出る質問の一つに、ウシの寿命があります。
「ウシは何歳まで生きるんですか?」

実は、酪農を専門とする大学教授の私ですが、この答えを実感として持っていません。今日は、その理由について触れたいと思います。

 

乳牛はミルクを搾る家畜です。

ということは、ミルクを搾れなくなると飼育する価値がななります。
ミルクを搾るためには子を産む必要があります。
これは哺乳動物すべてに共通する事実です。

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乳牛がミルクを生産できなくなる原因は大きく三つあります。

一つ目は病気などで生命を維持できなくなるようなケースです。
二つ目は身体自体は健康であっても、乳房の病気でミルクが出なくなるケース。ヒトのお母さんでは乳腺炎というようですが、ウシでは乳房炎と呼ばれます。
三つ目も、身体自体は健康ですが、子を産めなくなるケースです。老齢の場合もあれば、若くても不妊になるケースがあります。これもヒトと同じ状況です。

 

これ以外にも理由はありますが、いずれにせよミルクを搾れなくなるとウシを酪農場に置いておくわけにはいきません。生産者は経営をしていますので、かわいそうですが肉用として出荷することになります。このことを淘汰とか廃用といいます。

 

全国の乳牛に関する統計をとりまとめている家畜改良事業団という組織があります。こちらが、平成28年度の酪農の成績をとりまとめ公表しました。

 

平成28年度乳用牛群能力検定成績速報

http://liaj.lin.gr.jp/japanese/newmilk/index.html

 

そちらには様々な興味深い結果がまとまっていますが、その中の一つに牛が廃用される「除籍月齢」というものがあります。これは、何らかの理由でウシが農場からいなくなる時点の月齢を意味しており、乳用の雌ウシの寿命といってもよいかもしれません(肉用牛や、乳用種でも雄ウシのデータではありません)。

 

ちなみにウシは寿命が短いので年齢ではなく月齢で表します。
1歳だと12ヶ月齢になります。

 

さて、ウシが農場から去って行く月齢はどれくらいでしょうか。

68.9 カ月(前年差-0.6 月)です。
年齢でいうと5.7歳になります。

 

この数字を長いと感じるでしょうか、短いと感じるでしょうか。

私たち業界関係者にとってこの数字は短いという認識で、もっと長生きさせたいと考えています。

 

ウシは約24ヶ月齢(2歳)で初めての子を産み、搾乳が始まります。その後は一年数ヶ月ごとに子を産みます。
仮に14ヶ月間隔で子を産むとすると、24ヶ月齢+14ヶ月=38ヶ月齢で2産目。
38ヶ月齢+14ヶ月=52ヶ月齢で3産目。
52ヶ月齢+14ヶ月=66ヶ月齢で4産目となり、このあたりで平均除籍月齢に近づきます。

 

現場の感覚では、4頭の子を産む母ウシは健康で長生きのイメージです。だいたいは子を3回産むかどうかといった感覚です。途中で乳房炎になるウシもいますし、妊娠できなくなるウシも少なくないからです。

 

私が冒頭に書いた「ウシの寿命がわからない」という言葉はこのような事情によるものです。

 

最後に大学らしい話題を一つ。
私たち農場には実験用のウシが飼われています。彼女らは卒論研究や実習などに使われるので、ミルクを生産できなくなっても淘汰されることなく大切に飼われています。

4頭の実験牛がいますが、そのうちの1頭は農場でも最年長の15歳です。
近頃、彼女はヨボヨボで毛並みもぼさぼさになってきましたが、まだ元気にエサを食べる毎日です。

彼女が天寿を全うできるように、今後も大切に飼い続けたいと思います。