乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

トウモロコシだって生きている:栄養成分の個性

本学農場では学内の畑で牧草と飼料用トウモロコシを栽培しています。

牧草については、初夏に1回目(一番草)、夏の暑い時期に2回目(二番草)を収穫し、状況に応じて秋口に3回目(三番草)の収穫をします。
トウモロコシはゴールデンウィーク明けに種まきし、9月下旬から10月上旬に収穫します。こちらは1回だけです。

 

牧草の一番草とトウモロコシについては、短く切り刻んでバンカーサイロというコンクリートの壁で囲まれた区画に詰め込みます。

サイロ内に詰め込みが完了した後に、ビニールシートで覆ってやり空気を遮断します。酸素のない状況で保管すると乳酸発酵が起こり、pHの低下、すなわち酸性になり長期保存が可能になります。このようなものをサイレージといいます。

 

dairycow2017.hatenablog.com 

 

我が農場では、例年の収穫量だと牧草は3本のバンカーサイロ、トウモロコシは4~5本のバンカーサイロが満杯になります。1本のサイロは100トン~150トン程度の詰め込み量になるので、牧草だと400トン程度、トウモロコシだと600トン程度の年間収量になります。

これを1年365日で割ってやると、1日の牧場全体の給与可能量が出ます。バンカーサイロのエサは乳を搾っている泌乳牛にしか与えないので、そのときの泌乳牛頭数で1日給与可能量を割ってやると、1頭あたりの給与可能量が計算できます。

このように計算したところ、現在のメニューは牧草サイレージで1頭あたり15kg/日、トウモロコシサイレージで20kg/日位の給与量になっています。

 

↓フランスで見かけたモスラの幼虫のようなサイロ

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さて、トウモロコシサイレージですが、先日それまで使っていたサイロが空になり、新しいサイロを開封しました。トウモロコシでは、おおむね3ヶ月で1本を使い切る感じになります。

 

トウモロコシの栄養成分が低い!

 

トウモロコシは実がぱんぱんに詰まった時期を見計らって収穫します。飼料用トウモロコシなので、実は甘いわけではなくデンプンが充満しています。また、草丈が非常に高く3mに達します。これを切り刻んでサイレージにすると、繊維質とデンプン質がバランス良く含まれた、高栄養のエサができあがります。

 

新しいサイロを開封すると、飼料メーカーに依頼して栄養成分を分析してもらいます。

今回のトウモロコシサイレージは、それまで使っていたサイロとほぼ同時期に収穫したものです。それなのに、デンプン含量が大きく低下しており、エネルギー含量も低下してしまいました。

収穫日も用いたトウモロコシの種も同じで、違うのは畑だという状況で、栄養価が大きく変動したことに驚きました。分析のミスかと思い、再度分析を依頼しましたが、同様の傾向を示しました。

 

同じ大学内であっても畑(土壌)の栄養度が異なることが、学内の研究で明らかになっています。今回は、そういった畑の地力がトウモロコシの栄養価に関係したのかもしれません。

同じ農場で同じものを育て、数日しか違わない時期に収穫しているのに、畑が違うだけでこうも大きな栄養価の違いが出るとは。。。
これは、畑でとれる作物すべてに当てはまるのではないでしょうか。

 

スーパーで売られている野菜、見た目は同じでも栄養成分がばらつくことは避けられないでしょう。ですが、個性があるから生き物といえます。野菜だって生きているのだから、個性があって当然。多様性を受け入れて、栄養成分や味の違いを楽しむくらいの大らかさが大切なのかなと感じました。