乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

トウモロコシ収穫に思う決断の難しさ

9月下旬から学内のトウモロコシ収穫が始まっています。

トウモロコシは飼料用でバンカーサイロというコンクリートの壁の中に詰め込みます。子実(いわゆるトウモロコシの実)と茎葉全てを切り刻んで収穫します。密封保存すると乳酸発酵し、長期保存可能なサイレージになります。

本学農場ではトウモロコシサイレージを牛一頭1日当たり20kg程度与えており、主力の飼料です。

 

例年だとバンカーサイロ4本程度に収穫し、詰め込み量は総量で600トン以上にのぼります。

 

トウモロコシサイレージの飼料としての特徴は、なんといっても子実にあります。子実にはデンプンが豊富に含まれており、乳牛がミルクをつくる際のエネルギーとして利用されます。

 

飼料用トウモロコシの子実は、若いうちは糖度が高くとても甘いです。その頃の実は柔らかく、つぶすと甘い汁が飛び出します。私は、実の熟し加減をみるときに、この汁を舐めて甘味を楽しみます。

 

この糖分は、トウモロコシが熟すにつれてデンプンへと変化します。牛の栄養学的には糖分はあまり好ましいものではありません。デンプンの方が栄養素としては牛にとって適しています。

 

よって、トウモロコシを収穫するときは、実の糖分がデンプンに変わるまで待たなくてはいけません。

 

その時期が、札幌近郊では9月下旬から10月中旬になります。

今年も、暦通りに収穫を開始したものの、実を潰すと甘い汁が出る状態でデンプンの乗りが今ひとつでした。例年と比べ涼しい夏だった影響と思われます。

 

現場は、収穫を遅らせると、その後の冬に向かっての様々な作業が後ろ送りになるのでできればやっちゃいたい。エサのメニューを組む私の側からすると、実に含まれる糖分がデンプンに変わるまでもう少し待ってもらいたい。そのためには現在の収穫を一旦中断して欲しい。

 

1本目のサイロ詰め込みが終わった時点で、やや熱い議論になりました。

 

結果的に、収穫作業を1週間中断してくれることになりました。作業する側の事情よりも牛を優先したプロとして男気ある決断を皆が下してくれました。

 

それから1週間待った昨日からトウモロコシ収穫が再開しました。

これだけ置けば、十分デンプンが乗ると思われましたが、意外にもそれほど登熟が進みませんでした。11月並みの寒気が居座った影響かもしれません。

 

しかし、もう一度の中断は不可能です。

このまま、一気に進むしかありません。

やや未熟気味ながら収穫に邁進します。今日一本詰め終え、明日からの連休も休みなく収穫は続きます。この時期は長雨に当たると畑がぬかるみ大幅な停滞を余儀なくされるからです。

今回はやや異例ですが、多かれ少なかれ農場の収穫はいくつもの要因が複雑に絡みあって決断を難しくします。

 

このような場面で、関係者の意見をまとめ、かつ皆が納得できる決断を下すには相当な人間力と年季が求められます。

今回の収穫にまつわるそれぞれの立場に基づいた意見のぶつけ合いから、またひとつ気づきを得ました。
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