乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

なくて七癖:ウシにも悪い癖がある?!

みなさんは身近な人で気になる癖はありますか?

話すときに出る「えー」みたいな口癖などは、人前でしゃべる機会の多い多い私のような稼業では注意すべき大切なポイントになります。

私の尊敬するラジオパーソナリティー日高晤郎さんが、若手アナウンサーによく注意しているのを聴いて、私も意識するようになりました。

 

そのほか、貧乏揺すりや食べるときの見苦しい所作などいろいろと悪い癖ってありますよね。最近のちまたでよく目にするのは女癖(女性からしたら男癖)なんていうのもあるかもしれません。

 

私も、悪い癖にひょっとしたらあるかもしれません。あとで妻に聴いてみましょう(^^;)

 

ところで、ウシにも悪い癖があります。

ウシの癖には、いろいろと農家泣かせのものが多いです。
エサを振り回して散らかし放題するウシ、寝わらを敷いたベッド(牛床)に横たわらずに糞尿でビチャビチャになっている通路に寝てしまうウシ、水槽の水をジャブジャブこぼしまくるウシ、とまあいろんなことをやらかしてくれます(^^;)

 

さて、昨日、興味深い研究報告を読みました。

親ウシ(搾乳牛)で問題となる行動(悪い癖)に選択採食というものがあります。


搾乳牛のエサの与え方のひとつに、TMR(混合飼料)といって牧草やトウモロコシなどの発酵飼料(サイレージ)に穀類などの濃厚飼料、ビタミン・ミネラルのような添加剤を混ぜて与えるスタイルがあります。

 

TMRを作るときはミキサーという機械に先ほどのエサを順番に投入していって、均一に混合します。できあがったときは、どの部分をとっても配合されている飼料が均一に混ざり合っています。

 

↓実習では手で混ぜてTMRを作ります(下側がサイレージ、上に乗っているのが濃厚飼料)

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これを牛舎の飼槽に持って行き、牛たちに給与します。


TMRを与えられた牛が、そのままムシャムシャとおとなしく食べてくれれば各成分を均一に摂取してくれるので、栄養のバランスは非常に良いものになります。

 

しかし、このTMRを鼻で吹き飛ばしたり、選り分けたりするウシがいます。
選り分けると牧草などの繊維質系の比較的軽い飼料と濃厚飼料のように重たい飼料が分離します。

牛はデンプンやタンパク質を大量に含んだ濃厚飼料が大好物です。繊維質を吹き飛ばして、濃厚飼料を中心に摂取します。

 

このことを選択採食と呼びます。

 

↓選択採食をされると一部分のみ穴が空いたようになります。ウシがサイレージを吹き飛ばしながら食べた様子が目に浮かびます。

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今回読んだアメリカの研究報告では、この選択採食という癖は子牛の時に身についてしまうことが紹介されていました。

離乳前の子牛にはミルクに加えて、スターターという濃厚飼料と乾草を給与するのが一般的です。このとき、スターターと乾草を同じ容器で一緒に給与すると、子牛は乾草を食べずにおいしいスターターのみを選んで食べることを学習します。

 

この技術(?)を身に付けた子牛は、その後成長していく過程においてもこの食べ方を続けます。やがて、子牛から成牛になってTMRを食べるようになっても選択採食は続きます。

 

ということで論文では、子牛に対して乾草を与えるときは、スターターと乾草を別の容器に入れて給与することを推奨していました。

 

こう書くとなんてことのない簡単な情報に思えるかもしれませんが、子牛の時のエサの与え方に差を付けて、成牛になるまでそのウシの食べ方をモニタリングするというのは息の長い地道な研究です。そういういみでは、この論文で紹介されていた情報はとても希少な研究結果になります。

研究って意外と地味で、オタクでないと続けられない仕事です。

 

さて、話がそれました。
「三つ子の魂百まで」でありませんが、「なくて七癖」はウシもヒトも幼い頃の環境よって身についてしまうことが多いのでしょうね。

 

ところで、妻に私のクセを尋ねてみました。
「特に思い当たらないなあ」との答えでした。。。
ヘンなクセがなくてまずは良かったです(^^)