乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

乳牛の子牛を育て分娩させるまでの基本的な考え方とは

今日は3年生に対して子牛の育て方についての講義(演習)をしました。

 

今回のクラスの学生たちは、前回は牛舎でウシの体重を計測しました。
本学の乳牛舎に在籍する生まれたばかりの子牛から親ウシまでおよそ140頭の体重を計りました。

 

ウシの体重は、ウシ用の体重計(2000kgまで計れます!)で計測するのが正確ですが、巻き尺で胸囲を測ることでもほぼ正確に把握できます。

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学生を班に分け全頭の体重を計り、結果をグラフに落としました。

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ウシの歳は年齢ではなく月齢で表します。
乳牛では、60ヶ月齢で成長が止まり、真の成牛になると考えられています。

 

乳牛で子牛から大人になるということは、母ウシとなり子を産み乳を搾ることができるようになることと言い換えることができます。

乳牛が初めて分娩する月齢としては、24ヶ月齢が標準的な目標となります。
分娩をするためには二つの課題をクリアしなくてはいけません。

 

一つは、子供を産めるだけの体格にまで発育しているということです。
アメリカのNRCという教科書には、初産分娩時の体重として、60ヶ月齢の成熟時体重に対して82%の体重に到達していることが目標とされています。

750kgが成熟時体重だとしたら、その82%は615kgになります。

 

二つ目として、24ヶ月齢で子供を産めるように逆算して妊娠させる必要があります。
乳牛はヒトと同じ280日の妊娠日数です。
つまり、24ヶ月齢=730日齢から280日を引いた450日齢(およそ15ヶ月齢)で妊娠させなくてはいけません。

 

ウシでは凍結精液を解凍して子宮内に注入する人工授精が主流です。
したがって、15ヶ月齢が近づいたら排卵に合わせて人工授精をし、妊娠させることになります。

 

排卵はどのように把握するのでしょうか。
これは幸いなことにわかりやすいです。

ウシは排卵日が近づくと、発情といって興奮状態になります。そわそわ動き回ったり、モーモー鳴いたり、膣から粘液が流れ出たりとわかりやすい兆候があります。

そのタイミングで人工授精をすると、かなりの確率で妊娠させることができるのです。

 

育成牛を飼うポイントをまとめると、目標体重に向けて子牛が発育するようなエサを与えつつ、性成熟に到達したら妊娠させる作業を行うということになります。

 

エサのやり方によっては、成熟時体重の82%に到達するのに24ヶ月かけないことも可能です。

実際に、優秀な酪農家では21~22ヶ月で分娩させている事例もあります。早く発育させるためには、与えるエサの栄養価を高めてやる必要があります。

 

一方、栄養濃度の低いエサを与えると発育が遅くなり、初産分娩月齢も遅くなっていきます。26~28ヶ月で分娩させているという酪農家も少なくありません。

 

乳牛は子供を産むと牛乳を搾り始めることができ、酪農家に収入をもたらします。
原則として、1日でも分娩が早ければ酪農場の経営にとってプラスに働きます。

というように、育成技術の差は経営に直結する、といった話を交えつつ講義をしました。

 

私学は人数が多いので、同じ内容の講義を来週もう一度やります。
今週よりもスムーズにできるように、備忘録を兼ねて考えを整理してみました。