乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

牛乳の風味報道から見えてくる、生きた食材への過剰な反応

 今日の農業新聞(2018年3月19日付)に、給食用牛乳(学乳)の風味についての特集が組まれていました。

 

昨年6月、茨城県で、学乳の異臭騒ぎが発生したことは記憶に新しいです。

【茨城新聞】牛乳会社が設備点検 給食異臭 異常、確認できず


学乳の味や匂いに、違和感が感じられたため、製造元の乳業メーカーは製造自粛に追い込まれました。


しかし、その原因は、工場のラインなどの問題ではなく、単純に、搾られた牛乳の季節変動(自然現象)によるものでした。

 

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↑1年生の搾乳実習です

 

 

みなさんのオシッコやウンチは、日によって、色や匂いが変化しませんか?
食べ物の違いや、体調の違いによって、敏感に変化しますよね。
私は、ラーメンが大好きですが、カンスイの多いラーメンを食べると、尿の色は黄色くなります。栄養ドリンクを飲んでも、黄色くなりますよね。
肉ばかり食べて野菜が不足すると、便は黒っぽくなり、匂いもきつくなります。

 

これと同じことが、牛乳にも、当たり前のように起こっているということです。

 

牛は生き物です。
生き物が出すモノは、オシッコであろうと、ウンチであろうと、牛乳であろうと、食べ物や体調、季節によって、様々に変化します。

 

私は牛乳の風味検査をしたことがあります。

牧場によって、甘い香りのする牛乳、ほのかに苦みの感じられる牛乳、風味の乏しい極めてあっさりした牛乳、など、さまざまでした。

 

ちなみに、私の大学の牛乳は、甘い風味のおいしい牛乳ですが、それとて、季節によって大きく変化します。

 

なぜなら、乳成分は、季節によって大きく上下するからです。

グラフを見ると、乳脂肪以外の成分を表す無脂固形分と、乳脂肪は、夏場に低下して、冬場には濃くなることがわかります。冬の牛乳は、成分が濃いのです。

意外でしたか??

季節による生乳の平均的成分変化

日本乳業協会HPより

 

さらに、牛が口にするエサも、その時々によって、成分や栄養価が変化しています。

エサの成分は、牛乳の風味に、結構強く影響します。

 

そういった現象を知っている私でも、スーパーに買い物に行くと、時たま錯覚してしまいます。


それは、肉や卵といった畜産物の大きさや、色合いなど、あまりにも均一なので、人工的に作られたのではないかと、いう感覚におちいるのです。

牛乳など、パックに入っているので、ジュースはお酒と何ら変わらない、感じがします。

あの中に入っている牛乳の成分が、季節によって変化するなんて、思いもよらないですよね。


ましてや、生きた牛から搾られて、味や成分が牧場や地域、食べているエサによって、大きく異なることも、感覚としてとらえにくいです。

 

ですが、牛乳は、生き物が産みだしているモノなのです。

味や匂いに変化がない方が、おかしいといってよいでしょう。

 

記事では、問題の発生した工場での、対策についても紹介されていました。

工場に仕入れた牛乳の風味を検査する、官能検査員を増員し、今まで以上に厳しく風味以上をチェックするということです。また、今まで以上に複数地域の牛乳を混合して、風味のバラツキをなくす、ことにも取り組んでいるそうです。

 

製造中止になってはかないませんから、メーカー側の努力は当然でしょう。

頭が下がります。

 

ですが、私は、何か違和感を感じてしまいます。

そこまで、均一なモノを提供しないと、消費者は安心できないのでしょうか。

食材に当たり前に存在する多様性に対して、ここまで過敏に反応するのは、私にはむしろ滑稽に思えてしまいます。

 

季節によって変化する牛乳の風味を楽しむ、そんな味わい方もあって良いのではないと、今日の特集を読んで感じました。