乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

乳牛のルーメン内容物は、堅く詰まっていればよいのか?

今日は、酪農のテクニカルな話しです。

最新号の、酪農技術雑誌「デーリィマン5月号」に、私の書いた原稿が掲載されました。

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乳牛に、乳を大量に生産してもらおうとすると、穀物を多く与えなくてはいけません。


穀物は、エネルギー価が高く、牛に与えると乳量も増えるのですが、ルーメン(第一胃)で急速に発酵します。

穀物が発酵することで、酸が作られ、ルーメン内部のpHは低下します。


このpH低下が、適当な範囲であれば、大して問題ありません。
ですが、pH低下が過度に進んでしまうと、ルーメン内に生息する微生物たちが死んでいきます。

微生物が死ぬと、ルーメン内のエサを消化効率がガタッと低下します。

さらに困るのは、ルーメン微生物の死がいが出す毒素が、ルーメンを介して体内に吸収されて、牛の身体のあちこちで悪さをします。


こうなると、牛にとって大きなダメージです。

 

ルーメン内容物が堅く詰まっていると、このようなことは起こらないと考えられています。
それは、堅く詰まった内容物が、胃壁を刺激することで、反芻反射が起こるからです。反芻は、一度飲み込んだエサを噛み返す活動ですが、このときの咀嚼に合わせて、大量の唾液が出ます。

牛の唾液はアルカリ性なので、ルーメンに唾液が流入すると、低下したpHが中和されて、適正範囲に引き上げられる、というわけです。

 

そこで、これまでの酪農栄養学の常識では、多くの場合、ルーメン内容物を堅くするようなエサをあげましょうという、流れになっていました。

すなわち、繊維質に富んだ牧草などのエサを、大量に食べさせましょう、ということです。
繊維質は、ルーメン内容物を、堅くします。

 

しかし、ここ数年の、私たちの研究室の成果によると、ルーメン内容物がガチガチに堅すぎると、かえって採食量が減ってしまう可能性が、浮上してきました。
採食量が減ると、牛は、必要な栄養を取り込むことが、できなくなってしまいます。

これって、良いことではありません。

 

詳細については、本文を当たってください。

 

私は、大学で20年間、酪農について研究してきました。


研究の中には、それまで、常識と考えられていたことが、大筋は当たっているけど、細かい部分ではそうでもない、ということが、いくつもありました。

今回の成果も、そのような経験の、一つです。

 

世間で広く言い伝えられていることや、常識と考えられているものを、鵜呑みにしない。
研究の分野だけでなく、いろいろな、場面に当てはまると、この頃しみじみ思います。

 

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研究室のフェイスブックページを作っています。

軽い内容ですが、大学の雰囲気が伝わると思います。

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