乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

ホルスタインのオス子牛がいなくなる?!

酪農業界の新技術に、「雌雄判別精液」というものが、あります。

 

牛の世界では、乳牛でも、肉牛でも、メス牛を妊娠させるためには、人工授精が主流です。
その他に、受精卵移植という技術も普及しています。

 

人工授精とは、発情したメス牛に、凍結保存したオスの精液を、解凍して、注入する技術です。


現在の日本では、生きたオス牛を同居させて、メス牛と実際に交配させるケースは、まれです。

 

先ほどの、雌雄判別精液とは、メス子牛を産ませるように、特殊な処置をした凍結精液のことです。

 

雌雄判別精液をどのように作るのでしょうか。
オスになる精子と、メスになる精子は、遺伝子型が異なります。
XXとXYというのを、高校の生物で、習った記憶はないでしょうか。
オスとメスの遺伝子型の違いを利用して、メスになる精子のみを選別して、妊娠するのに必要な量の精液をストローに詰めたものが、雌雄判別精液です。

 

さて、人工授精で産まれる、子牛です。


肉牛は、大きく育てて肉として出荷するので、性別はさほど関係ありません。

 

一方、乳牛は、メスしか搾乳できないので、酪農家にとっては、メス子牛が産まれることは非常にありがたいです。

したがって、ここ最近の酪農家のトレンドは、雌雄判別精液を使ってメス牛を妊娠させることになっています。少し割高ですが、判別精液を使って、メス子牛を集中的に産み分けているのです。

 

ホルスタインのメス子牛は、牧場に残されますが、オス子牛(ホル雄)は、肉用として売られていきます。
ホル雄は、和牛と比べて、価格帯の安い、牛肉になります。

 

しかし、ここ最近、酪農家で生産されるオス子牛が、雌雄判別精液の影響もあってドンドン減ってきています。その分、オス子牛の市場価格は、5年前の3倍に跳ね上がっているそうです(北海道新聞 5/8付)。
1頭、4万5千円だったオス子牛が、13万6千円とのこと(同紙)。

ホルスタインの雄子牛高騰 道内牛肉の8割 産み分け普及、生産者直撃:どうしん電子版(北海道新聞)

 

ホル雄を専門に育てていた肉牛農家は、仕入れ値の高騰を売値に転嫁できないため、苦しい経営を強いられています。

この状態が続くと、ホル雄の価格帯の牛肉は、輸入物に置き換わらざるを得なくなるでしょう。

 

雌雄判別精液は、酪農家が待ち焦がれた、夢のような、技術の進歩です。
しかし、その一方で、副作用が肉牛農家や消費者に及んでいます。

 

みながハッピーになる新技術の開発は、なかなか難しそうです。

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