乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

新しい技術、さっと使えるとヒトと、相手にしないヒト、その差は大きいです

先日、私の研究室の卒業生が突然(本当に突然)遊びに来てくれました。
どれくらい突然だったかというと、自動車で3人やってきたのですが、その日の日の出前に訪ねてきて、いきなり大学に向かうことに決めたそうです(^^;)

 

卒業して10年目の教え子たちです。
おもしろい話をたくさん聴きましたが、酪農の新技術に関して興味深い話しを聞きました。

 

まずは、その新しい技術について解説します。

 

ウシが妊娠すると、胎盤からPAG(ぱぐ、またはPAGs)という物質が作られます。この物質が、妊娠牛の血液中や牛乳中に検出されます。

 

これまで、ウシが妊娠しているかどうかについては、ヒトと同じでエコーや触診で観察していました。エコーというのは、お腹にゼリーを塗って超音波を当てることで見えるようになる検査法です。


ヒトではお腹に当てることで、健康診断や赤ちゃんの発育を観察します。ウシでは、肛門から、エコーの装置を挿入して、子宮や胎児の状態を検査します。

触診というのは、牛の肛門から手を入れ、直腸壁を介して、隣接する子宮を触り、小さな胎児を確認することで妊娠鑑定をするというものです。

 

しかし、さすがに手で胎児や胎児を包んでいる胎膜を確認するのですから、受精からある程度の日数が経過していないと判断は困難です。ベテランの獣医師であっても、一般には35~40日を経過していないと、判断は難しいとされています。


また、慣れない人がやると、子宮をガシャガシャいじることで、せっかく受胎した胎児が流産してしまうリスクもあります。

 

ここで、先ほどご紹介したPAGに話を戻します。
最近、牛乳中に微量に含まれるPAGを、迅速に分析できる手法が普及してきました。


受胎後28日以降であれば、乳中のPAG濃度を分析可能になりました。酪農家は、人工授精をしてから、28日経過したウシの牛乳を分析に出すと、9割以上の確率で妊娠しているかどうかを判定できます。

 

これまでのヒトによる妊娠鑑定と比べて、10日~二週間早く、妊娠の有無を知ることができます。

 

この日数短縮を、みなさんはどう思いますか?


先日、訪ねてきてくれた、卒業生のひとりは酪農家で、この新技術を駆使することで、驚異的な好繁殖成績を上げているということでした。
彼は、極めて使えるツールだと力説していました。

 

一方、別のところで聞こえてきた何人かのベテラン酪農家からは、「あんなもの必要ない」、「意味ない」とのことでした。

 

私は最近、スマホに切り替えて、その仕事効率の向上を実感しています。

 

新技術、「おれには必要ない」と思いがちですが、そこにはクローズドマインド(閉鎖的な考え方)が見え隠れてしているように思えます。

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