乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

酪農と電気の話し

先週、北海道を襲った大地震

未だに余震が続いており、1日何度かビクッとします。

スーパーには、相変わらず空っぽの陳列棚があります。

 

さて、今回は地震の被害も重篤でしたが、ひょっとしたらそれよりも停電の方が影響を受けた人口は多かったのではないでしょうか。

電気がここまで大規模に失われたのは、未曾有といってよい出来事だったと思います。

 

今回は、酪農や牛乳生産と電気の関係について、まとめてみたいと思います。

 

停電はある日突然やってきます。


電気がないと、まずはなんと言っても、搾乳ができません。
現在の標準的な乳牛では、1日30kg以上の牛乳を産み出します。

一般には、1日2回搾乳しますが、手搾りでは追いつかないので、全て機械で搾ります。

真空ポンプを回し、ミルカーという装置を四本ある乳頭に装着して、乳を搾り取るのです。強力な掃除機のようなもので吸い取るイメージでしょうか。

 

搾り取った牛乳は、バルククーラーという電気で作動する冷蔵タンクで保管しなくてはいけません。

法的には、速やかに4℃以下への冷却が義務づけられています。
温度の上がった牛乳は、食品として出荷できないので、廃棄処分です。

 

搾り終わった後のミルカーや牛乳配管を洗浄するのも、お湯を沸かすのも、電気が必要です。

洗浄ができないと、配管内に残った牛乳は、すぐに腐敗していまうので、そうなると電気が復旧しても、すぐに搾乳することはできません。

 

一方、牛のエサやりはどうでしょうか?
実は、こちらも電気が必要です。

配合飼料や穀物などのペレット状のエサは、たいていは飼料タンクに保管されています。

100kg~トン単位でエサを取り出す必要があるので、飼料タンクから、エサを取り出すのも、電気の力でモーターを回す必要があります。

つまり電気がないと、タンク内にエサが入っているのに、エサを取り出せないのです。


ヒトの方も同じようなことがあります。

妻の話では、給湯ボイラーにお湯がたまっているのに、電気がないのでシャワーが使えなかったそうです。

 

牛の糞尿を運び出すのにも、バーンクリナーやバーンスクレイパーといった電気で動く機械を設置している酪農場が少なくありません。

 

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話はそれますが、ブタやトリもエサや糞尿処理については、省力化のため機械化されています。

また、ウシと違って、ブタ・トリは窓のない完全屋内飼育という畜舎が多いため、換気のための空調は生命線ではないでしょうか。

今回の停電で、それら全てがストップしたはずです。


以前も書きましたが、ブタ、トリの業界は、外部からの伝染性疾患の侵入を防ぐため、基本的には外部の人を受け入れないシステムになっています。
そのため、取材対象にはしにくいところもあり、極端に報道が少なかったのだと思います。

 

ですが、停電によって、酪農と同じか、それ以上に苦しんだのではないかと推測します。
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話を酪農に戻します。今はやりの搾乳ロボットなどは電気がないと、ただの箱です。

また、牛乳工場も、電気がないと操業停止です。

 

とまあ、乳という栄養豊富であるが、腐りやすい液体を扱う酪農業は、冷却や洗浄、搾乳など、電気がないと全く動きのとれないことが、改めて露呈しました。

 

牛は1日2回搾られることで、乳房が健康に保たれます。
これが1日1回、2日に1回しか搾れないと、乳房が張りすぎて、牛は強烈な苦痛を感じていたのではないでしょうか。

普段はおとなしい牛たちが、モーモー鳴いてひどかったという声を聴きました。
お乳が張って痛かったことと思います。

 

酪農には、自然の中で、スローライフのようなイメージがあるかもしれません。
ですが、電気と切っても切れない関係にあるのです。

 

ちなみに、私が訪問していたフランス。
彼の国は、電力の大半を原子力でまかなっているそうです。

 

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