乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

害獣被害からみる、多面的な視点の大切さ

本学では、牛用の飼料として、牧草と飼料用トウモロコシ(デントコーン)を栽培しています。

 

牧草は、年に2~3回、初夏から秋口にかけて収穫します。
デントコーンは、9月下旬から10月上旬にかけての収穫です。

 

我が大学は、札幌市に隣接する江別市にあり、野幌原始林という林に隣接しています。

 

ここには、数多くのエゾシカが生息しています。
私が子どもの頃にはいなかったはずですが。。。

 

ここに住むエゾシカが、5~6年前から、原始林に隣接した飼料生産圃場に大挙して出没するようになりました。

今では、白昼堂々と群れで出てくるようになっています。

 

今年は、その圃場にデントコーンを植えました。
しかし、写真にあるように、新芽の時期からエゾシカに食べられ続けて惨憺たる状況でした。

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もちろん収穫量も悲しいほどしか採れず、1年間の苦労が水の泡となりました。
デントコーンを栽培するためには、畑の耕起・整地、播種・肥料散布、除草材散布、収穫と、資材費、燃料代、人件費とバカにならない経費がかかっています。

これらがほぼ全てパーとなりました。

本当に憎たらしいシカたちです。

 

北海道では、エゾシカに加え、クマやアライグマの食害が大きいです。
一方、本州ではイノシシでしょうか。

 

10月27日の日本農業新聞に、今の日本を象徴する近視眼的な世論に関する記事が大きく取り上げられていました。

日本農業新聞 - 同情電話 全国から殺到 迷いイノシシ砂防ダム転落 賛否の中救出劇 農業被害深刻 住民は“困惑” 福岡県北九州市

 

九州の自治体で、災害防止用のくぼみにイノシシが落ちてしまったという出来事が発生しました。


それがネットの全国ニュースに取り上げられたところ、300件ものクレームが寄せられたそうです(ほぼ全てが市外から)。

 

”「なぜ対応しない。怠慢だ」「行政の責任だ。助けろ」。強い口調で担当者を叱責する人も多かった。1時間以上、怒鳴られた担当者もいた”とのことです(同紙より)。

 

一方で、イノシシは凶暴化して人を襲ったり、農作物への被害が甚大であることから、この自治体では有害鳥獣として予算を投入してイノシシを駆除しているそうです。同市の年間のイノシシ駆除目標は、なんと1500頭だそうです。
この頭数からも、イノシシ被害に地元住民が苦しんでいる状況が見て取れます。

 

近所の住民は、”落ちたイノシシをかわいそうだとは思うが「近隣の農家は本当に困っている。無責任に助けてとは言えない」と複雑な胸の内を明か”しています。

凶暴なイノシシなので、簡単に作業が済むわけでもなく、市側のイノシシ”救出作戦”は続いている”そうです。

 

昨夜のクローズアップ現代でも、ネットを通して盲目的にひとつの情報を信じ込んでしまうことの恐ろしさが放映されていました。

なぜ起きた?弁護士への大量懲戒請求 - NHK クローズアップ現代+ 

 

ネット上に掲載される一面的な情報に踊らされないためには、多様性を認め、寛容な考え方を常に意識する必要があると、最近つくづく感じます。


その自信がなければ、私のように、ネットサーフィンをしないことでしょう。