乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

正しい搾乳の仕方:考え方編

今日は兵庫県の播磨農業高校で出張講義をしてきました。

今は空港で帰路の便を待っています。

11月の兵庫県、ムチャクチャ暑かった~

ストーブを焚いている北海道とは大違いでした(^^;)

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私の担当する講義、先週のテーマは搾乳手技(正しい搾乳の仕方)でした。
搾乳とは、文字通り乳房内の「乳を搾りとる」ことを意味します。

 

昔は、牛の乳を手で搾り取っていたことでしょう。
しかし、今では手搾りは希少で、ミルカーという機械で搾乳するのがスタンダードです。

 

※私が今夏訪れた山形県の農業系の高校では、手搾り搾乳をしていました。ポジティブな意味でショックを受け、いのちの教育について考えさせれました 

dairycow2017.hatenablog.com

 

ここ数年、爆発的に普及してきている搾乳ロボット。この機械は、自動で搾乳してくる機械ですが、厳密には自動でミルカーを装着してくれる機械といった方が正しいかもしれません。

 

ミルカーを4本ある牛の乳頭に付けてしまえば、あとは搾ロボであろうと手で装着しようと、搾乳装置が自動で搾ってくれます。

 

搾乳装置は、真空圧でミルカーを動かし、吸う、止まるを1秒程度の間隔で繰り返す、掃除機のような吸引システムです。

 

↓こちらは手でミルカーを付ける一般的なタイプ。

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正しい搾乳の仕方は、手でミルカーを装着するまでの正しい準備方法、と読み替えることもできます。

 

牛乳は、いうまでもなく食品です。
搾乳は、牛乳という高栄養で高水分な菌に汚染されやすい「食品」を生産(収穫)する作業です。

 

さらに、牛の乳房内部は、汚染されやすい牛乳が詰まっているので、雑菌(ばい菌)にとっては絶好の生息場所です。

そのため、ばい菌たちは、ありとあらゆる手段を使って、乳房内への進入・感染の機会をうかがっています。

乳房が菌に感染してしまうと、乳房炎という病気になり、牛乳生産量が激減したり、最悪のケースでは牛の命にまで関わります。

 

こういった乳房炎リスクは、搾乳前後にもっとも高まります。
ミルカーの装着、牛乳の排出によって、普段は閉じている乳頭口が開き、細菌が侵入しやすくなるからです。

 

したがって、搾乳作業は菌との戦いといえます。
いかにして、牛乳や乳房内に菌の付着、侵入を防ぐかということが、最も重要なテーマになります。

 

乳頭に付着している菌を、除菌、殺菌するまで、ミルカーを装着してはいけません。

 

私が学生に講義で、乳頭を自分の口に含んでもよいと思えるくらいきれいにしてからでないと、ミルカーを装着してはいけないと伝えています。

これはアメリカの著名な酪農コンサルタントの言葉です。

 

作業効率優先で、手順を省いたり、簡略化したりしがちですが、肝となる理論はしっかり抑えておくことが必要です。

省略してよいパートと、必須のパート、これらを理解した上で選別しなくてはいけません。