乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

乳酸発酵をコントロールして、良質サイレージや発酵TMRを作ります

今日は、兵庫県から、獣医師と飼料メーカーの4名の来客があり、サイレージ発酵や発酵TMR調製のポイントについて、学習会を行いました。

 

北海道では、畑でとれる牧草やトウモロコシを貯蔵するために、サイレージを作ります。

サイレージとは、飼料を乳酸発酵させたもので、サイロに詰めて作ります。

 

私は本州の飼料事情には、それほど明るくありません。
今回は、発酵TMRについての話しを聞くことができて、講師である私も勉強になりました。


発酵TMRとは、乾草、濃厚飼料、粕類などの副産物を混ぜて、密閉して、乳酸発酵させたものです。

 

サイレージ(発酵TMR)作りのポイントは、いかにうまく乳酸発酵をさせて、良質なものを作るかにかかっています。

乳酸発酵がうまくいかないと、酪酸発酵という不良発酵が起こり、嫌な匂いのする牛の食べないサイレージになってしまいます。

 

乳酸菌は、乳酸を生成して、pHを急激に下げます。
pHが低下し、酸性状態になると、雑菌が増殖できず、腐敗がすすみません。


乳酸発酵が充分に進んだサイレージは、フルーツのような香りがして、色も鮮やかで、ヒトが食べてもおいしそうな感じがします。

 

一方、pHが下がらないと、酪酸生成菌が活動を始めます。
酪酸生成菌は、乳酸を酪酸に変え、タンパク質からアンモニアを作ります。
酪酸アンモニアは、典型的な不良発酵の指標で、これらの濃度が高いと臭くて、べたついた、劣悪サイレージとなってしまいます。

 

乳酸菌は糖を栄養源として、増殖し、乳酸を生成します。
したがって、良質なサイレージ(発酵飼料)を作るには、材料中に充分な糖が含まれていなければなりません。

 

糖の目安としては、原料の乾物中で10%くらい含まれていてもらいたいです。
牧草地で悪評の高い雑草、たとえばシバムギなどは、窒素含量が高いくせに、糖含量は低いです。
そのため、雑草の多い牧草地では、良質なサイレージを作ることが難しくなります。

ぱっと見、牧草も雑草も、どちらも緑のただの草ですが、その栄養価は大きく異なるのです。

 

栄養面以外で乳酸菌が活躍する条件は、密封と水分です。


乳酸菌は酸素のない嫌気状態で活動を開始するので、酸素を遮断する必要があります。
切断長の長い牧草をサイレージ化しようとすると、圧縮しても隙間が生じてしまうので、どうしても空気が残りがちです。

このようなサイロでは、良質な乳酸発酵が進まず、品質の良くないサイレージができがちです。

 

また、乳酸菌が活躍するには、適度な水分が必要です。

パンを作るドライイーストも、水気を含んだ小麦粉と混ざると一気に活動を開始するのと同じ原理ですね。

高水分過ぎても、低水分過ぎても乳酸発酵はうまくいきません。
水分含量は、サイロの形態にもよりますが、40~70%くらいがベターだと感じます。

 

まとめると、良質サイレージを作るためには、乳酸菌の好きな環境を用意してやれるかどうかが、ポイントになります。

すなわち、糖、嫌気状態、適当な水分です。

 

今日は、このような基礎から、細かい応用まで、乳酸発酵について、みっちり勉強しました。

 

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