乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

都市部でがんばる、たくましい酪農家を訪問

昨日から、学生、お隣の研究室のD助教とともに、兵庫県の酪農家とTMRセンターの視察に出張しています。

 

今回は、兵庫県の山間部に位置する町々を訪問しました。
こちらは、鹿やイノシシが畑を荒らす地区だそうです。

 

春先に本学でサイレージの学習会を開いたご縁で、今回はその時の受講してくださったみなさまにご案内いただきました(お一人は、私のゼミの学生のお父様!)。

 

1件目の酪農家は、350頭をロータリーパーラーで搾乳している、巨大酪農場です。関連事業として、ジェラートをメインとしたカフェを展開なさるなど、地域の産業として定着している経営体でした。

 

2件目は家族経営で、40頭弱の搾乳牛を飼養している、県内では標準的な酪農場でした。

 

私が、北海道と大きく異なると感じたの、3点について紹介します。

 

1点目は、暑さ対策です。

どちらもトンネル換気というシステムを採用していました。

この方式は、細長い長方形の牛舎の片方(短辺)の壁一面に巨大な換気扇をいくつも取り付けます。長編側の壁はすべて窓をふさぎ、空気の流入を遮断します。換気扇を付けたのと反対側の壁(もう一つの短辺)は、壁を取っ払って空気の流入口とします。

 

片側から強烈な陰圧換気(吸引)をかけることで、牛舎の中はかなりの勢いの風が流れ込みます。
たとえるならば、ハエや蚊は飛ぶことができない風速です。

私も初めてこのような牛舎に入りましたが、猛烈な風で涼しく、快適でした。

これに、ミストといって霧を天井から噴霧して、風に乗せて飛ばすことで牛体を冷やしていました。

 

この辺りは、平気で35℃を超える地域なので、いかに牛を冷やすかということに腐心しているかがわかりました。

 

2点目は、エサにサイレージを使っていないので、牛舎内の匂いがほとんどしないということです。


牛は草食動物なので、そもそも糞尿の匂いはそれほどキツいものではありません。
ヒトも含めて、肉食、雑食の動物の糞は匂いがきついです。

 

本州は自給飼料の畑を持っていない酪農場は珍しくなく、今回の2件も概ね同様でした。

自給飼料がないということは、エサはすべて購入です。

購入飼ということは、粗飼料については乾草中心になるので、サイレージのような発酵飼料はほとんど使いません。

 

良好なサイレージは乳酸発酵によって、甘い、フルーツのような匂いがします。
ですが、それを空気中に放置しておくと、酵母酪酸菌といった悪玉菌による発酵が進み、すべてのサイレージが不良発酵をしてしまいます。


したがって、自給サイレージを給与している北海道の酪農場では、多かれ少なかれサイレージ臭が牛舎には充満します。

 

今回の訪問時は、梅雨の雨模様で、ジメジメとした悪い状況でした。
ですが、牛舎の匂いは、驚くほど少なかったです。

 

牛本来の匂いは、それほどないということが、改めてわかりました。

 

3点目は、都市近郊型酪農の悩みです。

北海道の酪農地帯は、酪農場の周辺に非農家の住宅が少ないことや、酪農家の戸数も多いことから、糞尿などの匂いについて大きな問題となることは、ゼロではないですが、少ないです。

道東のある地方都市では、空港に降り立つと、「お、今は糞尿散布の時期だな」と匂いでわかります(^^;)

(本学は、街なかの経営体なので、かなり気をつかっていますが。。。)

 

一方、兵庫県は、周辺に非農家の住宅や店舗など、当たり前のように存在していました。

そのため、住民への配慮にとても気をつかっている様子でした。

相手の身になって考えて、行動するのは当たり前のことですし、酪農家は匂い対策に力を入れていました。酪農家自体はがんばっているのですが、酪農場に対する風当たりは少々強すぎるようで、気の毒に感じました。

 

酪農場が一戸あると、食料供給だけではなく、そこには多くの雇用と消費が生じます。酪農資材やエサなど、経済効果という面では、相当大きなものになります。
小規模な経営体でも、年間で数千万円のお金が動きます。

そのうえ、子供たちの給食にも地元の牛乳を提供でき、立派な食育となります。

 

北海道では、過疎対策から、住民の移住促進といった視点で、新規で酪農をやってくれる人たちはウエルカムという自治体が多いです。


それが、過疎問題とは縁のない都府県では、新規で酪農をやると、いい顔をされない場合がある。

 

道産子の酪農関係者としては、北海道と内地では、大きな違いがあることに気付かされました。


不利な条件の中、たくましく、がんばる酪農家の姿に、頭が下がる思いでした。
学生たちはまた、私とは違った感想を持ったことでしょう。

彼らが何を持ち帰ってくれたか、週明けの報告会が楽しみです。

 

↓カンペキなヒトなんていない、心を打たれましたf:id:dairycow2017:20190723180928j:plain