乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

風が吹けばタンカーが座礁し、畜産業界は大混乱?!

スエズ運河のタンカー座礁問題、ぱっと見、中東のアクシデントなので石油が輸入できなくなったら大ごとだ!と感じます。
(僕もそうでした)

 

その視点を畜産業化に向けてみると、ことはそれだけではない大ごとだということがわかってきます。

 

つい先日、エサ業界の知り合いと話しをする機会がありました。

 

彼曰く、タンカーやタンカーに荷物を積み込むためのコンテナ、そこで働く作業員は全世界共通なので、スエズ運河で船舶が大渋滞することは、中東だけでなく、アメリカやオーストラリアまで余波が波及していると嘆いていました。

 

アメリカやオーストラリアは、ご存知、わが国の畜産飼料の大輸入産地です。
最近、飼料の価格が暴騰してることが、私たちの業界では問題視されています。
さらに、オーストラリアの干ばつによる輸入乾草が品薄だということも、大きな危機感となっています。

 

これらには二つの大きな要因があるそうです。

一つには中国の畜産物需要の増加
もう一つには、船やコンテナといった物流の停滞です

 

前者に関しては、中国が畜産物の国内自給に舵を切ったため、大量のエサの輸入が発生しています。

 

後者は、特にコロナによる都市閉鎖(移動制限)が作業員不足をもたらし、その影響が表面化してきたことを意味しています。

 

港で働く作業員が足りないので、船が港についても荷物を速やかに降ろせない、荷物を降ろせないのでコンテナも船も空かない、それらが空かないので次の荷物を積み込めない、荷物を積み込めないので船はいつまでたっても港を離れられない、船が離岸できないので荷物を輸出できない、荷物が輸出されないので輸入国では品薄状態となる・・・という負のスパイラルが顕著になっているのです。

 

ここでいう荷物には、当然家畜の飼料も含まれます。

ただでさえ荷物の動きが停滞しているところに、スエズ運河の船舶の大停滞が発生しました。

コロナ前はオーダーから1ヵ月で入ってきていた飼料が、ウィズコロナの昨今は3ヵ月待ちになっていたそうです。それが、このスエズ運河事件で、半年待ちになってしまうかもしれないということでした。

ものが品薄になっているので価格転嫁は避けられず、その影響が遠からず消費者にまで及びそうです。

 

さらに、スエズ運河という位置的に、ヨーロッパ方面からの物流は直接的なダメージを受けます。

ヨーロッパからの物流停滞は、畜産関連ではエサだけでなく、施設や機械などの機材にも影響が及びます。
搾乳ロボットなどは大半がヨーロッパに本社を置くメーカーが製造しています。
それらの部品供給が滞ると、牛舎の工事や修繕が止まってしまいます。

 

今回のスエズ運河事件、たかが一隻のタンカーの座礁で済まされない大きな問題だということがわかります。

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