乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

エサとサプリ、どちらが良いのか?

卒論発表会を来週に控え、当研究室でも学生とディスカッションする時間が増えています。

 

ある学生の卒論は、飼料添加剤を乳牛に給与した場合に乳生産が向上するかどうかを調べるといったもの。ヒトと同じで乳牛も添加剤(サプリメント)を与えることがあります。私も疲れがたまっているときはビタミン剤などのサプリメントを妻から与えられます。

今回は牛の乳量は無投与群と投与群で変化なかったが、1日の飼料摂取量が投与群で減少しました。1.6kgの減少です。このことが解釈を難しくしました(ちなみに今回の実験では、牛は1日に20kgくらいのエサを食べました)。

エサを食べる量が減ったのは、サプリメントの嗜好性が悪かったからなのか?いやいや、少ないエサの量で同じだけの牛乳を搾れたのだから効率アップで良かったのではないか。

前者だとマイナスの結果、後者だとプラスの結果になります。見る角度によって解釈が異なることは、研究をしていると日常茶飯事で、そのたびに頭を悩ませます。

ひとつの大前提として家畜を飼うことにおいては、エサを食べる量が大切で、これをいかに増やすかということが永遠のテーマです。たくさん食べる牛は、基本的にはたくさん乳をだすからです。

この理屈でいくと、このサプリは牛がエサを食べる量を減らしてしまうので悪いサプリということになります。ですが、今回はエサから乳への効率がアップしたために、エサが減っても乳量は減りませんでした。

判断がつかないときは見方を変えて、もう一つの情報を加えてやります。今回は「コスト」です。

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エサ1.6kgとサプリ1日分のコストは、それぞれいくらでしょうか。仮にエサ1.6kgが100円、サプリが80円だとしたら、サプリを与えることで20円のコストダウンに成功したことになります。逆にエサ代よりサプリの方が高ければ、サプリを与えずにエサだけ食べさせた方が良いことになります。

ところが、今回はエサ代とサプリ代がほぼ同じ価格になりそうだという、計算結果が出ました。担当学生はどう判断するか悩んでいます。サプリを与えても、与えなくても、コストは同じで乳量も同じです。違うのは、与えるエサの量が1.6kg多いか少ないかの違いだけです。

 

発表会を控えているのでここではこれ以上、私の意見を述べません。みなさんも学生と一緒に考えてみてくれないでしょうか。サプリをやりますか?やりませんか?