おばんです。
昨日は、炭水化物を中心にエネルギーについて話しました。今日はその続きです。
総エネルギーと代謝エネルギー
昨日の後半で、①ご飯と牧草あるいは②生米と炊いたご飯、どちらがエネルギーが多く含まれているでしょうか、という問いをしました。
この問いに答える前に、エネルギーの定義について考えてみましょう。
ある食べ物をさして、この食品はカロリーが高いので食べるのを控えようとか、これは低カロリーだという表現をしますよね。この場合のカロリーは多くの場合「総エネルギー」のことをさしていると考えて良いでしょう。
総エネルギーとは、そのものを燃やしたときにどれくらいの熱量を出すかという指標です。カロリーは中学か高校の理科で習いましたよね(私は遠い昔すぎていつだったかうろ覚えです。。。)。水1gの温度を1度上昇させることができる熱量を1カロリーと習いましたよね。
その定義でいけば、お米も牧草も燃やせば同じようにメラメラ燃えて、水を温めることができますよね。実際のところ100g当たりの総エネルギーは次のようになっています。
米:356 kcal
牧草(チモシー):392 kcal
米と草はほぼ同じカロリーでした!(というか、牧草の方が絶対値ではやや上回っています)
燃やしたときの炎をイメージしたら納得いくかもしれませんが、意外な結果ではないでしょうか。これを食べたら同じだけのエネルギーを摂取できるでしょうか?ご飯と同じように、草を食べても太るでしょうか?
「そりゃあ、ムリだべ」というのが、みなさん一致の答えですよね。
その通りです。
総エネルギーだけでは、その食べ物がどれだけ”身になるか(体内で利用されるか)”はわからないのです。
ここで、登場するのが代謝エネルギーです。
なにやら、急に難しくなってきました。しかし、この考え方を使うことで、その食べ物がどれだけ”身になるか”がわかります。代謝エネルギーを考えるときには、消化と吸収について整理する必要があります。
消化と吸収
食べたものは、消化・吸収されることで、はじめて体内(ここでいう体内とは血液中)に取り込まれます。消化・吸収されなかった部分は、ウンチとなって排泄されます。消化・吸収される部分とウンチになって捨てられてしまう部分の比率が食べ物によって異なります。この違いが、その食べ物の栄養価を決めると言っても過言ではありません。
冒頭の例に出した、生米、牧草、炊いたご飯、ウンチの量の多くなる順に並べてください、と問われたら直感的に次のように並べはしないでしょうか。
牧草>生米>炊いたご飯
この直感は正しいです。牧草は、食べてもほとんど消化されずほぼウンチとして排泄されるでしょう。
総エネルギーが同じであっても、ウンチとして排泄される量が多ければ、ウンチとして排泄されるエネルギーが多いということになります(ウンチにも立派にエネルギーが含まれます)。
仮にお米は食べた量の20%がウンチになり、牧草は80%がウンチになると仮定します。双方を100g食べると、吸収される量とそのエネルギーはこうなります。
米:100-20=80g
→356kcal×0.8=285kcal
牧草:100-80=20g
→392kcal×0.2=78kcal
こんなに大きな差になってしまいました。つまり、総エネルギーが等しくても、消化されて、吸収されなければ、ウンチとなって水に流れて行ってしまうだけで、食べたヒトが利用することができないのです。
これが、食べ物の栄養価の高低を決定的に左右します。
代謝エネルギー
さらに、食べたものが体内で利用されるまでにはロスがあります。それは、オシッコとゲップに含まれるエネルギーが生命維持に利用されずに排泄されるからです。オシッコもしっかりカロリーがありますし、ゲップにもカロリーが含まれます。ただ、ヒトのゲップは無視しても良いレベルですが、牛のゲップには高カロリーなメタンが含まれていますので、結構大きなロスになります。
ウンチ、オシッコ、ゲップのエネルギーロスを合わせると、摂取した総エネルギーの半分程度になります。このロスを差し引いたエネルギーを代謝エネルギーといいます。
代謝エネルギーが多いほど、ロスがなく効率の良い食べ物になり、これが低いほど体内で利用されずに排泄されてしまう部分の多い食べ物ということがいえます。
総エネルギーが同じでも、代謝エネルギー含量が高いのがお米、低くて無駄の多いのが牧草ということになります。
炊いたご飯と生米はどちらが代謝エネルギーが高いかも、想像が付きますよね。
炊いた方が圧倒的に消化が良いですから、代謝エネルギー含量も高くなります。
エネルギーの基本がわかれば、乳牛のエサ設計もそう難しくはありません。
以下、続きます。