乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

乳牛のエサ設計:タンパク質の2

 

おばんです。

羽田空港からの更新。

長ーい、2日間の旅を終えようとしています。

疲れたけど、息子の経験として何か残ってくれればうれしいです。

さて、今日は頑張ってタンパク質栄養の第2弾です。

 

ルーメンとタンパク質

ここまで、タンパク質の構造について説明してきました。
ここからは、いよいよエサに含まれるタンパク質がウシにどのように利用されるかについて学んでいきましょう。

 

前回はこちら↓ 

dairycow2017.hatenablog.com 

ルーメンには微生物が無数に生息しています。これがウシの栄養学をややこしくします。

エサに含まれるタンパク質が食べられてルーメンに到達すると、その一部はルーメン微生物によって分解されます。
やっかいのはじまりです。。。

タンパク質がアンモニアに分解されてしまう

 エサのタンパク質は、ルーメン内で分解されるタンパク質と、分解されないタンパク質に分けられます。微生物が分解できるタンパク質と、微生物の力を持ってしても分解できずに未消化のままルーメンから流れ出てしまうタンパク質の二通りになります。

私たちが高タンパク質である肉を好きなように、微生物もタンパク質が大好きです。
長男は最近特に肉に対する要求が強まってきました。前はそれほど執着しなかった甘いものもひんぱんに食べたがるようにもなりました。それにつれて第二次性徴も始まってきました。
ウシもヒトも一緒ということを身をもって体感しています。爆発的に成長するときは栄養要求量も増加するのですね。ウシを高栄養で飼育すると、第二次性徴も早まります。栄養学と体の働きを関連づけて考えると楽しいです。

さて、ルーメン微生物とタンパク質に戻ります。
エサに含まれるタンパク質は、そのままでは大きすぎて微生物は食べることができません。そこで、連中はタンパク質を細かく分解していきます。タンパク質を分解するとアミノ酸になりますが、これでも微生物にとっては大きすぎます。アミノ酸をさらに分解して、ついにはアンモニアにまでしてしまいます。

アミノ酸には窒素が含まれています。アンモニアは窒素に水素が4個くっついた小さな分子です。アンモニアがどれくらい小さいかというと、放っておけば空中に気体となって飛んでいくくらいの小ささです。アンモニアは、アミノ酸から余計なものをこそげ落としたものととらえても良いです。

ちなみにトイレなどでアンモニア臭がすることがあります。これはアンモニアがとても小さくて空気中にガスとなって漂い、鼻の中に飛び込んでくるから匂いとして感知できる、というメカニズムです。

アンモニアはルーメン微生物のエサ

 

微生物は、タンパク質をアンモニアにまで分解して、ようやくエサとして利用できます。アンモニアを利用して、微生物自身のタンパク質を合成し、やがて分裂して増殖していきます。

ウシに与えたはずのタンパク質ですが、分解可能なタンパク質はウシに直接利用されず微生物のエサとして利用されてしまうという、妙な現象をご理解いただけたでしょうか。

以上が、ルーメンの中で分解されるタンパク質の運命です。

一方、分解されないタンパク質はルーメンから流れ出ます。第三胃、第四胃、十二指腸、小腸(総称して下部消化管と呼びます)と流れて行きますが、これ以降のタンパク質の消化・吸収の仕組みは我々と同じです。

 

ルーメン微生物とタンパク質栄養、まだまだ続きます。

国立科学博物館にウシの消化管の展示がありました。全長40メートル!

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