乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

自尊心よりも大切なもの

おばんです。


明日から日本畜産学会で神戸大です。
神戸には昨年、家族旅行で私の両親と子供3人と妻の合計7人で行ってきて以来です。

今回の学会は、自分の発表に加え、3演者分の座長(司会)、関連学会での講演(この準備がキツかった)、共同で研究している企業2社との打ち合わせ、と予定がびっしり。農場の引き継ぎや飼料設計の見直しなど、役付き者としての業務を優先せざるを得ない中、キリキリの日々でした。

 

昨日は最後の追い込みで、日付が変わった今日になってようやく準備が終わりました。寝不足だったけど、家族と過ごせる最後の1日なので、アクティブに過ごしました。

次男との空手も疲れて行きたくなかったけど、気力を振り絞っていって戻ってくると身体も心もリフレッシュできてすっきりでした。運動をすると成長ホルモンが出て、疲労回復効果があるというけど、本当でした。疲れているときほど体を動かす、これ肝に銘じます。

 

さて、今日は先日に引き続き北海道酪農検定検査協会の2016年年間成績に絡めた話の2回目です。

 

成績が伸びないヒトの傾向

 

今年の北海道酪農のホルスタイン種経産乳牛一頭当たりの平均乳量は9,502kg、昨年は9,306kgでした。私の身近な酪農場で、この数字に遠く及ばない低乳量の牧場があります。

 

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                 出典:北海道酪農検定検査協会HP

 

そこのマネージャーは、その原因について尋ねられると、必ずエサ、それも粗飼料が原因だといいます。そこで与えている粗飼料(牧草やトウモロコシサイレージ)は、自分たちで栽培しているものではなく、よそからの供給です。マネージャー氏は、ことあるたびにその供給されるエサが悪いので乳量が伸びないと言います。しかし、同じ粗飼料を別の牧場でも使っており、そちらでは平均以上の成績を上げています。

 

私はどちらのウシの飼い方も見ているので、エサだけではない別の要因があるとにらんでいます。しかし、エサ以外の要因となると、それはマネージャー氏の側に責任があるということになってしまうので、本人は認めたくないのでしょう。

流転の海 (新潮文庫)

 

私が愛読している宮本輝氏の「流転の海」シリーズがあります。
強烈なインパクトを持った宮本氏の父親を主人公に据えた大河小説で、まだ完結していません。その主人公、松坂熊吾が作中で語る人生訓がためになり、極めて奥行きの深い濃厚な作品になっています。
たとえるならば、36ヶ月熟成させたハードタイプのチーズのようにアミノ酸がじゃりじゃりいう程のうま味たっぷり、と言えばいいでしょうか。

 

松坂熊吾が、息子(宮本輝氏)にこう語る場面があります。
「自尊心より大切ものを持たなくちゃいけない」(実際は伊予弁ですが)

 

私は小さなくだらないプライドほど邪魔なものはないと思っています。
それがあるばっかりに、自分の非を認められず、自己成長のきっかけを失います。とっさに言い訳や嘘が口をつくのも、基本的にはおかしなプライドが原因であることが多いです。

 

私は、くだんのマネージャー氏が自分のウシの低能力を他力本願のエサのせいにするたびに、この言葉が頭をよぎります。

 

少なくとも、私の子供たちには、くだらんプライドは捨てなさいと口が酸っぱくなるくらい伝えています。

 

素直に自分の腕のせいだと認めて教えを請えば改善点が見つかり、ウシも彼もハッピーになれるのにと思ってしまいます。

ある程度の地位を得たビジネスパーソンになると、欠点を指摘してくれる人は極端に少なくなります。若い内に気づけるかどうかで、その人の一生が決まってしまいます。

 

ちなみに、私の見立ててでは、あの牛群の血統ならまともに飼えば全道平均は楽々クリアできると感じています。同じエサを与えたままで。

 

私は自分というものがなさ過ぎるくらいいろんな人の教えを請うタイプです。これはこれでどうかと思いますが(^^;)