乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

学者が知識を伝えることの難しさ:「栄養学を拓いた巨人」

おばんです。

 

神戸からの更新です。
小雨模様で蒸し暑い~


札幌も暖かいとはいえ、こちらとは別格に感じます。
午前中は息子と最後のお別れ。いっぱいくだらんことして遊びました。これから4日も会えないかと思うと寂しいです。

若い頃は出張はとても楽しい業務でした。知らない土地に行くことで大いに刺激を受けました。ですが、幸せな家庭を持ってからは、家族と離れての出張が苦痛に変わりりました。。。

家族で囲む晩ご飯や妻とともにする晩酌のひとときの幸せを味わってしまうと、一人ラーメン屋か焼き鳥屋で済ませる食事の侘しいことわびしいこと。スマホいじりながら無言でラーメンをすするお兄ちゃんやおじさんたちとともに食事をしていると、家族の幸せをかみしめずにはいられません。

愛する妻は、妻としても母としてもなくてはならない我が家の太陽だなと、最近特に考えます。

そんなことを考えながら、辛い担々麺とビールで晩ご飯を済ませてきました。

 

さて、研究者にとって春の学会は一大イベント。

日本畜産学会は毎年3月に開催されます。
今年度の総括として成果を発表し、来年度の研究のヒントをもらったり、新たな人脈を作る場になります。

 

相手の身になって考えること

 

出張のお供に本を1冊持ち歩くのですが、今回は栄養学の歴史についてのブルーバックスを買ってみました。
久しぶりの純粋な科学の本です。

高校、大学時代は、このての本をよく読みましたが、最近は小説かビジネス書がほとんどで、この手のお堅い本は本当に久しぶりです。

今回は移動時間も長いので、まじめな本を1冊しか持ってこないようにして、あえて自分に制限を課しました。この本を読むしかありません(^^;)

 

家では激烈におもしろい黒川博行氏の「破門」を読みかけのまま置いてきました。持参するとどうしてもそっちを読んでしまいますので。この作品は直木賞受賞作品です。直木賞受賞作品はまず外すことがありません。新しい作家さんを開拓する際には、直木賞をキーワードに絞り込むことをおすすめします。

黒川氏の極道ものは関西弁のテンポがよく、私は大好きです。

破門 (角川文庫)

 

最近読んだ直木賞作品では、同僚に借りた朝井まかて氏の「恋歌」も秀逸でした。悲しくも重たい作品です。

恋歌 (講談社文庫)

 

さて、「栄養学を拓いた巨人」杉晴夫著です。

栄養学を拓いた巨人たち 「病原菌なき難病」征服のドラマ (ブルーバックス)

 

先ほどラーメン屋で晩飯を食べながら読んだのは1章の「生物は体内で栄養素を酸素を用いて燃やしている」、「生物はこの燃焼によって発生する熱エネルギーを利用して生活している」という、栄養学の大原則がいかにして解明されたかという歴史について述べられています。

 

フランス革命前夜の科学者ラボアジエから始まる、1700年代後半から1800年代後半にかけての約100年間の話です。

このような昔に精密な実験を試みて、栄養学を解明しようとする熱意には胸打たれるものがあります。

モノが燃えるには酸素が必要であることや、それが体内でも同じようにおこなわれていること、だから生物は酸素がないと生きていけないこと、原子や分子といった概念などを一つ一つ解明して行く様は、300年前に「プロフェッショナル」があれば取り上げられていたことでしょう。

科学者たちの奮闘や時代に押し流されたドラマは、読んでいてワクワクします。

 

ただ、所々出てくる科学的な解説場面が難解です。

栄養学の骨格でもある、「燃焼」の話は興味深いのですが、それに付随する法則や数式、概念が専門的すぎて素人には理解できないのです。


この書物は誰を対象に書かれたのかなと思ってしまいました。
タイトルに惹かれて生理学や栄養学の知識のない一般市民が購入しても、専門用語が多すぎる上に、文中にその解説もないので読み進めるのは骨が折れることでしょう。
私も物理学の知識は弱いので、所々ちんぷんかんぷんです。

 

学術書ならこれでもよいのですが、ブルーバックスは巻末の発刊のことばで、対象を「学者や学生はもちろん・・・家庭の主婦も・・・」とうたっています。我が家の妻はこの本を読み進めることはできないだろうなあ。

 

著者は東大で博士号を2本も取得している大先生ですが、素人にもわかるように知識を噛み砕いて伝えることは得意ではないのかもしれません。

少なくとも私の物理学の知識では読み込めない~
学生時代に物理の勉強をもっとしておくのだった。。。