乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

地球規模の食について考える:アメリカの隠れた飢餓_上(ナショナルジオグラフィック)

ため息オジサン
ただいま統計処理セミナー会場で、始まりを待っています。
テーマは非線形モデルを用いた解析方法。

ところで、みなさんの周りにもいないでしょうか?
ため息をついてぶつぶつネガティブな独り言をいうオジサン。。。
私の斜め後ろの席にもお一方が。
ため息一つで1つ歳をとるという言葉もありますが、このオジサマ、デーモン小暮閣下並の年齢かもしれません(^^;)

 

地球規模の食について考える

 私は商売柄、酪農や乳牛の栄養学だけでなく、農業や食料、環境問題にも関心があります。

この春、ナショナルジオグラフィックの増刊号を購入しました。タイトルは「ナショジオと考える地球と食の未来」です。こういった雑誌を我が家の茶の間のマガジンラックに入れておけば、子供たちが手に取って眺めたりしないかなという期待もあってのことです。
きれいな写真もあるのでどうかと思いましたが、私以外で手に取られている気配はありません。。。(-_-)

子供たちが読んでくれないので、みなさんとシェアしたいと思います(^^;)

地球レベルの食糧問題について、いくつかの視点で特集が組まれていました。今回は、その中でも特に印象的だった、農業大国アメリカでの飢餓について紹介します。

今回の情報ソースは「豊かな国でなぜ栄養失調になるのか 米国に広がる新たな飢餓」です。 

 

太っていても栄養失調

 アメリカでは貧しく、食費を捻出できない人が大勢いるそうです。

そして、そのような人たちほど肥満がはびこっているそうです。これ、一見矛盾するように感じられます。普通に考えると贅沢な食事が続くと体重は増え、飢餓に苦しむ方はやせてしまいます。

なぜ、アメリカでは貧困に苦しむ人は肥満にも苦しまなければならないのでしょうか。

 

答えはファストフードにあります。


ファストフードは安価な食事の代表選手で、食費を安くあげようとすると、ハンバーガーにジュースという生活が手っ取り早い選択になります。

ファストフードの栄養価ですが、炭水化物と脂質の比率が高く、タンパク質含量は低いのが一般的です。

それぞれの栄養素を金額ベースでみると、小麦に代表される炭水化物、トウモロコシや大豆などから搾れる油は安く、タンパク質を豊富に含む肉は高価です。

小麦粉のように作物を収穫したものを若干の加工を経るだけでヒトの口に入る栄養素は、余分な経費がかからないので安いです。


一方畜産物ですが、一旦収穫した小麦やトウモロコシを今度は家畜にエサとして与え、育てるという工程が加わります。小麦は1年で収穫できますが、ウシなどは最低でも2年近く育ててようやく肉となりヒトの口に入ります。小麦の種まきから数えると肉になるまでに3年の歳月が過ぎることになります。

 

小麦:種まき→収穫→食べられる
牛肉:種まき→収穫→エサにする→育てる→肉になる→食べられる

 

文字で書いただけでも、農作物よりも畜産物の方が手間と時間がかかり、価格が高くなることはご理解いただけると思います。

 

栄養の効率面で考えると次のようにも考えられます。

小麦をそのままパンなどの食品に加工すれば、10の小麦から10のパンを作ることができます。
しかし、小麦をエサにして家畜を育てるとき、家畜の体温としての熱産生、糞尿の排泄、皮や骨といった食べられない部分の廃棄など、食肉になるまでに大量のロスが生じます。

結果的に10の小麦から、2~3の肉しか生み出せないことになってしまいます。おまけに、この家畜を育てるための施設や労働力など、栄養素以外のコストも上乗せされます。

 

したがって、可能な限り食費を安くあげようとすると、小麦で作ったパン、油で揚げたフライドポテト、砂糖のいっぱい入ったジュースといった偏った食事にならざるを得ず、結果的にオーバーカロリーになり、肥満になってしまうのです。

 

炭水化物や安い栄養素であるが、タンパク質、とくに動物性タンパク質は高価な栄養素であることの、背景がご理解いただけたでしょうか。

 

次回は、栄養素のコストと人々の食生活の関係を掘り下げます。