乳牛と酪農を科学する

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乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

中学生の理科と大学生の家畜栄養学:教養科目の学びとは?

みなさん、おばんでした。

私が受け持っている講義に家畜栄養学があります。3人の教員で分担していますが、私の担当はウシをはじめとする反芻家畜の消化管や栄養素の消化・吸収です。

 

第一胃内の消化生理は独特なメカニズムなので、家畜栄養学独自の分野になります。一方、第四胃以降の消化生理については、単胃動物であるヒトの消化と仕組みはほぼ同じです。

消化・吸収のメカニズムは目に見えないせいもあってか、学生には理解が難しいようです。そのことは、毎年のテストの結果が物語っています(^^;)
私の教え方も悪いのかと常に工夫を凝らしてはいるのですが。。。

 

講義の中で、3大栄養素である炭水化物、タンパク質、脂質の消化を解説します。

炭水化物には糖やデンプンのようにヒトでも消化可能なものと、繊維質のように消化できないものに分けられます。

デンプンと繊維質は見た目や性質はまったく別物ですが、どちらもブドウ糖が多数連結していることには変わりありません。デンプンも繊維質も、それを作る材料は同じなのです。ただ、その連結の仕方が違うことで消化できるかできないかが決まります。

 

タンパク質はアミノ酸がいくつも連結したものです。アミノ酸には窒素が含まれます。窒素(N)は畑の肥料に入っていますね。植物体もタンパク質(アミノ酸)合成のために窒素を利用するからです。

 

講義で触れる脂質は中性脂肪です。中性脂肪は、グリセリンという骨格に3つの脂肪酸がくっついたものです。脂肪と脂肪酸の違いがイメージしにくいので黒板に絵を描いて説明します。脂肪酸には植物油とか魚の油に多く含まれる不飽和脂肪酸と牛肉やバターに多く含まれる飽和脂肪酸があります。

 

これら3つの栄養素に共通するのは、各栄養素を構成する材料、たとえばブドウ糖アミノ酸、がいくつもくっついていてることです。したがって、食物に含まれる栄養素そのままでは大きすぎて、小腸から吸収することができません。

 

食物に含まれる栄養素は胃(反芻家畜では第四胃)、十二指腸、小腸と流れていく過程で消化されます。消化とは体内(血液中)へ吸収可能な大きさまで細かく分解されることです。分解された栄養素の吸収は大部分が小腸で行われます。


小腸がとても長いのは、食物がそこを流れていく間に食物をを分解し、吸収するためです。私は、この消化管の仕組みを学ぶにつけ、生き物が進化の過程で獲得した合理的で美しいメカニズムにうっとりしてしまいます(^^)

中学生のテストに栄養学?!

 

さてさて、最後に驚き、考えさせられたことを紹介します。

先日、中2の長男の中間テストが戻ってきました(結果は・・・聞かないでください(^^;))。理科の問題と教科書を見て驚きました。
3大栄養素の消化について詳しく触れられていたからです。

私はすっかり忘れていましたが、栄養学の基礎は中学で習うのですね。

↓新品同然にきれいな息子の教科書(-_-)

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私が講義で教えてもなかなか点を取ってくれないこの分野。実は、中2で習っていたのですね~(-_-)
おそらく高校でも習うでしょうから、学生たちの人生では私の講義で3度目です。
それなのにまったく理解していない学生が少なくない。

教養科目の無力さを感じた瞬間です。


この事実は何度教わっても、本人が知りたい、学びたいという気持ちがないと身につかないことを示しています。

やらされている間は自分の血となり肉となることはないのでしょう。
結局は本人次第。 

 今、池上先生の教養に関する本を読んでいます。
教養の学びについては日を改めて触れたいと思います。