乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

原稿執筆:反芻の新しい考え方

新学期の始まりです


どこの職場も新年度は、多少なりと緊張感を持って仕事がスタートしますよね。


大学では、3月までは、比較的自己に向かう仕事中心のスタイルが可能でしたが、4月からは当然ながら、学生に向かう仕事中心のスタイルにガラッと変わります。

学生の教育、学生との研究、そして自分の研究や仕事と、年度末と比べて、時間管理の集中力と体力が求められる季節の到来です。

 

今日は、恒例の朝食と昼食の2食弁当を、妻に作ってもらい、早朝から執筆作業をしました。
来週締め切りの、酪農技術誌の原稿を仕上げました。

 

牛は、反芻をします。

反芻の役割には大きく、二つの役割があります。

 

反芻によって、胃内容物を吐き戻し、再度咀嚼することで、内容物の粒子を細かくすることが、一つ目の役割です。

 

ちょっぴりヨコ道にそれますが、先日、上野の科学博物館に行く機会がありました。


飛行機の予定が迫っていたので、NHKスペシャルで特集されていた「人体」の企画展示を、駆け足で観てきました。

テレビを観た人間からすると、“復習”のような意味合いが強かったですが、見所は満載でした。

 

その展示で、キリンの複胃の標本が展示してありました。
複胃とは、第一胃(ルーメン)から第四胃にかけての、4個の胃袋のことです。

人体展で、最も印象に残ったのが、キリンの胃袋、というあたりが職業病というか、ルーメンオタクだなあとつくづく実感しています(^^;)

 

乳牛の第一胃と第二胃は、ほぼくっついた状態ですが、キリンの二つの胃袋は細いくびれによって分割されていました。4個の風船が連なっているような、イメージです。
これは、とても興味深かったです。

そして、あの長い首を、反芻によって吐き戻された胃内容物が、さかのぼっていくというのを想像すると、ワクワクしてしまいました。

興味のある方は、消化管のコーナーで、探してみてください。

 

↓反芻に失敗して、吐きだしてしまった、内容物の塊

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さて、反芻の役割二つ目です。
それは、噛み返し際に、大量の唾液を出すことです。


反芻している牛は、恍惚とした表情で、クッチャ、クッチャと、咀嚼を繰り返します。口からはダラダラとよだれを垂らしながら。

 

一見、汚いイメージですが、私にとって反芻中の牛は、うっとりした顔つきに見えて、たまらなく癒やされます。

 

ここで出される唾液は、アルカリ性です。

牛が、ルーメン内でエサを消化(発酵)するとき、栄養素となる酸が生成されます。
この酸、吸収されるとエネルギーや牛乳生産に利用されるのですが、吸収がうまくいかないと、胃内部が酸性になってしまいます。


胃の内部が酸性になると、生息している善玉菌が死んでいき、悪玉菌が優先してしまいます。このあたり、人の腸内環境と似ていますね。

 

その余分な酸を、反芻中に流れ込んでくる唾液が中和するのです。

つまり、二つ目の反芻の役割は、ルーメンの内部環境を健康に保つということになります。

 

反芻は、このように重要な役割を持っているので、乳牛にとっては欠かすことのできない活動です。

しがって、これまでは、反芻の、良い点ばかりが強調されてきました。
ですが、私たちの研究室では、最近の研究で、反芻について違った側面もありそうだ、という結果を得ています。

 

今回は、反芻についての、新しい考え方について、紹介する予定です。
出版されたら、改めてご紹介したいと思います。