私の研究、教育以外の大きな仕事として、農場の乳牛群の飼料設計があります。
牛の乳生産に合わせて、エサのメニュー(配合割合)を決めるというものです。
飼料設計は、ルーチンワークではありますが、研究的側面も含まれています。
先日、現在使用している粗飼料(サイレージ)の、栄養成分の分析結果が上がってきました。ちなみに、サイレージとは、牧草やトウモロコシを、乳酸発酵させたものです。
結果をみると、今、給与しているサイレージ、特にコーンサイレージの栄養価が、例年と比べて少しだけ低かったです。
そのため、飼料設計が難しく、頭を悩ませているところです。
ウシが出す牛乳に見合っただけの、栄養をエサから、供給してあげなくてはいけませんから。管理栄養士さんと同じような仕事を、牛を相手にしている、と思っていただければよいでしょう。
さて、先ほどの、栄養分析結果ですが、どのようにして私の手元に届けられるのでしょうか?分析をお願いしている企業の担当者が、牛舎のサイロから、エサを持って行きます。さて、その先は、どうなっているのでしょうか?
今日は、エサの栄養成分は、どこで、どのように分析されているか、についてご紹介したいと思います。
昨日、私は札幌で、ある会議に参加してきました。
このグループでは、全道の研究機関、農業団体、飼料メーカーが会員となって、飼料成分の分析やその手法について、検討を続けています。
栄養成分の分析は、対象となる飼料を乾燥、粉砕(粉にします)するところからスタートします。
従来の方法は、粉砕サンプルを計量して、試薬と混ぜたり、加熱したり、煮沸したり、して徐々に分解していきます。分解することで、調べたい成分(例えば脂肪やタンパク質)のみが抽出されるので、その重さや濃度を専用の機械で測れば、含まれている量(含量)を計算することができます。
いわゆる手分析といわれるもので、一つの成分を求めるのに、長時間がかかります。長いものだと、2日~3日かかるものもあります。
そのため、人手もかかり、コストも安くありません。
↑手分析用に計量した、粉砕サンプル
一方、ここ20年くらいでしょうか、近赤外線(NIR)分析というものが普及してきました。
これは、サンプルに特殊な光を当てて、その光の透過や屈折、反射を計測することで、中に含まれている成分を計測できるというものです。含まれている成分の濃さによって、光の動きが変わる特性を利用しています。
光を当てるだけなので、一瞬で分析は終わります。
ですが、時間が早いだけあって、得られた値は限りなく真の値に近い、推測値という域をでません。
真の正確な値は手分析で調べるけど、ほぼ正確であれば安くて早い方が良い、というときにはこちらで十分です。
酪農の分野では、エサの栄養成分に加えて、牛乳の栄養成分も近赤外線分析で行われています。乳脂肪や乳タンパクなどですね。
私は、この会の正式なメンバーではありませんが、昨年依頼を受けて行った試験の、結果報告のため参加してきました。
この会が、これから提供する予定の、新しい成分値を用いたときの、乳牛の反応について検討したものです。新成分を、飼料設計ソフトに入力すると、計算結果がより精密になり、そのエサを食べたウシが出す乳量を正確に予測できる、といったことを紹介してきました。
今回の成果がもとになって、酪農家の経営に貢献できるようになると、こんな嬉しいことはありません。
国内最先端を行く技術集団とのディスカッションは、知的な刺激に満ちた時間でした。