乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

ルーメンアシドーシスと牛の行動について

先日のフランスでの国際学会で、ルーメンアシドーシス(ルーメン発酵による酸性化)と乳牛の行動について興味深い講演がありました。


演者はカナダの研究者で、私もしばしば研究のヒントをもらっているDeVries博士です。

 

彼は乳牛の採食行動についての権威です。
そんな彼が、ルーメンアシドーシスと採食行動の関係で講演をしました。


ルーメンアシドーシスは、ルーメン微生物やルーメン内でのエサの発酵なので、一見すると、採食行動との関係は深くないように思われます。

 

ですが、エサがどのようにしてルーメンの中に流れ込んでくるか、という視点でとらえると、牛の採食行動やバンクマネジメント(エサの給与法、飼槽の状態をどのように管理するかということ)がルーメンアシドーシス(ルーメン発酵による酸性化)と密接に関連することが分かります。

 

牛は平均すると、1日5~6時間、エサを食べます。

ヒトは3食ですが、牛は1日に10回前後も「食事」をとります。

1回の食事時間は30分程度が通常です。

これはヒトと同じくらいです。

 

1回の食事で食べる量を均等に、まんべんなく食べてくれれば何の問題はありません。ですが、バンクマネジメントが悪いと、少ない回数で、ドカッと一気食いするケースが発生します。

私たちも、朝食を抜いたりして空腹が強くなると、猛スピードで一気にどか食いしますよね。
牛も同じです。


ちょこちょこ小さな食事を、頻繁に行う牛は、ルーメンアシドーシスになりにくいです。
一方、どか食いする牛は、ルーメン内に発酵の原料となるエサが一気に流れ込むので、猛烈に発酵が進みます。このことは、急激にルーメンpHを下げることに繋がり、アシドーシスになってしまいます。

人も、牛も、どか食いは身体によくないということです。

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↑飼槽が空っぽの状態が長いと、牛はエサが配られると、どか食いをします。

 

どか食いとともに、大きな問題となるのが、選択採食です。
選択採食とは、牛にも好き嫌いがあって、好きなものばかり食べてしまうことを指します。


我が家の子供たちを見ていると、肉を先に食べて、嫌いな野菜はどうしても最後に食べがちです。牛もこれと似たような行動をします。


牛の好きなモノは何でしょう?


それは穀物です。

もっというと、デンプンや糖といった、世間でいうところの糖質です。


糖質を奥含む穀物は、ルーメンの中で急激に発酵し、酸を出します。
酸が大量に作られると、pHは急低下し、ルーメンアシドーシスに陥ります。

 

牧草などの繊維質と穀物を混合して与える方式を、TMRとよびます。
TMR方式だと、全て混ぜてあるので、理論上、牛は繊維と穀物を同時に摂取することになります。

 

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 しかし、牛は上手に選り分けて、穀物だけを選択採食しようと試みます。子供が、嫌いな野菜を、上手に分けて残すのと同じですね。

さながら、食べさせる側と食べる側の化かし合いのような感じです。

 

デブリさんは、ちょこちょこ食いをさせ、しかも選択採食をさせないような工夫が、ルーメンアシドーシス予防には重要だと、多くの研究成果を示しながら説明していました。

 

ルーメンアシドーシスにかかることで、乳量が大きく減少します。
それは、経営にも、ウシの健康にも、食料生産的にも、大きな損失です。
牛のバンクマネジメントを良好な状態に保つことは、飼料給与担当者の、腕の見せ所でしょう。