何度かブログで紹介しましたが、私は今期、獣医学類のF講師とカナダから留学してきているO教授との共同実験に取り組んでいます。
今日は、O教授から、私の研究室に在籍している3年生に講義をしてもらいました。
テーマは、O教授の自己紹介とルーメンアシドーシスでした。
当研究室は、ルミノロジー研究室という看板を掲げているだけあって、ルーメンを中心とした栄養代謝が研究の柱になっています。
ただ、これまでの演習では、ルーメンの栄養代謝について突っ込んだ講義をする時間を設けることができていませんでした。
今回は、そういた意味でも、うってつけの講義になりました。
講義の冒頭、海外での経験が豊富なO教授の経歴がユーモアを交えながら紹介されました。
つかみはばっちりで、講演の入り方として、私も大いに参考になりました。
次にルーメンアシドーシスの理論に移りました。
デンプン(いわゆる糖質)を豊富に含む濃厚飼料を給与すると、エネルギー摂取量が増えるので、乳量が増えます。
その仕組みは次の通りです。
濃厚飼料は、ルーメンで急激に発酵し、発酵酸がつくられます。
発酵酸は、ルーメン壁から吸収されると、血液に溶け込んで乳房に送られます。
乳房の牛乳生産の細胞は、発酵酸を材料に牛乳や乳成分を作ります。
つまり、発酵酸は牛乳の主要な材料だといえます。
デンプンの消化のしやすさなどが、電子顕微鏡の写真を交えて興味深く解説されました。
デンプンを包んでいるタンパク質構造の強さによって、微生物によるデンプン消化の程度が異なるのです。
発酵酸とpHの関係を続けます。
その名の通り、発酵酸のpHは酸性です。
つまり、発酵酸がルーメン内で大量に作られると、pHは低下します。
ルーメンpHが低下すると、ルーメン内に生息する微生物の働きが弱まったり、その数が減少していきます。酸性下では、微生物は生きていけないからです。
ルーメン微生物数が減少すると、食べたエサの消化が弱まり、牛乳生産が減少します。
こう見ていくと、ルーメン内で作られる発酵酸は、直接的には牛乳の材料になるが、ルーメン微生物にダメージを与えるという意味で、間接的に乳生産を抑制することにもなってしまいます。
両刃の剣なんですね。
ルーメンpHが低下して、ウシやルーメン微生物に悪影響が出る状態をルーメンアシドーシスとよびます。
乳牛の栄養管理者が、ルーメンアシドーシスを防ぐための対策として、次のオプションが考えられます。
1.発酵酸生成量を抑制する
2.発酵酸を除去する
2-1ルーメン壁から酸を吸収する
2-2唾液による中和(唾液はアルカリ性なので、酸を中和します)
今回は、発酵酸の生成と除去について、簡単な計算(足し算、かけ算)を用いてワークを受けました。
これがおもしろかった!
発酵酸の生成量をエサのタイプごとにポイントを付けます。
発酵酸の除去量も反芻刺激の強さによってポイントを付けます。
反芻刺激の強いエサは、唾液の分泌を促すので、発酵酸の除去量が多いという理屈です。
ちなみに、牛は休息時、採食時、反芻時といつでも唾液をダラダラと流していますが、特に反芻時に唾液の分泌量が多くなることがわかっています。
手を動かすワークは集中できて、とても興味深く、深い学びに繋がりました。
90分の講義があっという間で、物足りない思いがするくらいでした。
今日の結論
教員は自分の授業に酔いがち。
他人の授業を受けることで、大いなる学びがあります。
いつも目指していますが、学生がワクワクする講義を今まで以上に目指したいと思いました。