搾乳ロボットという機械が日の出の勢いで普及しています。
これは日本に限らず、全世界的傾向です。
通常、搾乳作業は人の手で行います。
手搾りではありませんが、ミルカーとよばれる搾乳機器を牛の乳頭に装着する作業は人が行います。
搾乳は、牛乳という食品を生産するので、ただミルカーを付ければ良いというわけではありません。乳頭を消毒し、生菌数の少ないクリーンな牛乳を生産するために、細やかな前作業、後作業が必要になります。
ミルカー装着に、前後の関連手順を合わせて、搾乳作業とよびます。
昨今の生乳不足から、酪農場の大規模化は止まりません。しかし、それに逆行するように人手不足は世界的な流れのようです。
そこで、搾乳作業を人に代わって代行してくれる搾乳ロボットが脚光を浴びるようになってきました。ちなみに、本学では、現在の流行に先立つこと2000年から、搾乳ロボットが稼働しています。
さて、今日は北米の搾乳ロボットの権威が来道して、セミナーを開催するというので、参加してきました。
講師の言葉には現場感覚に満ちた、有益な情報が多くありました。その中から、いくつかの気づきをまとめておこうと思います。
・分娩直後の乳牛は、どんどん搾乳回数を増やし、乳腺に刺激を与えるべし。そうすることで、乳腺が活性化して、泌乳期間を通して高乳生産が期待できる。
搾乳回数を増やすためには、搾乳ロボットに牛が自発的に進入してくれなくてはいけません。牛を呼び込むために、搾乳ロボット内で濃厚飼料を給与しますが、分娩直後牛に対しては、その量を増やすことが重要なポイントだということです。
・搾乳ロボットは高額な投資なので、効率よく搾乳を行い、投資を回収しなくてはいけない。そのためには、1台の搾乳ロボットから2,000kg/日以上の牛乳を搾ることが目標となる。
平均乳量が34kg/日の牛群60頭を1台の搾乳ロボットで管理すると、日乳生産は2,040kgとなります。これが、ロボットを導入して、経営を失敗しないための目標になります。
・牛追いが必要なロータリー搾乳ロボットよりは、牛が自発的に進入するボックスタイプの搾乳ロボットの方が利点が多い
一般的な搾乳ロボットは、一つのミルカーが付属していて、牛が自発的に侵入するボックスタイプが主流です。
それに対して、近年、巨大な円形のロータリーの上に、数十台のロボットを搭載したロータリータイプが、開発されています。イメージとしては、メリーゴーランドのような感じでしょうか。
講師によると、ロータリータイプの搾乳ロボットは、牛をロボットのある施設まで追い込んでこなくてはいけないので、労力的に従来型のミルキングパーラーと大きく変わらないということを指摘していました。
また、牛は搾乳待機場まで長距離を歩かされた上に、ぎゅうぎゅう詰めの状態で長時間待機するので、そのストレスは無視できないということです。
恥ずかしながら、私はそこまで現実的に意識したことがありませんでしたが、たしかに講師の説には一理あるなと納得しました。
昨日のエントリーにも書きましたが、現場感覚の大切さです。
・120頭の牛を搾乳する場合、1台のロボットを備えた牛舎2棟よりは、2台のロボットを備えた1棟の牛舎の方が効率が良い
ボックスタイプの搾乳ロボットは、一般的に、60頭の牛が定員で、1日3回搾乳可能とされています。
60頭で1台よりも、120頭で2台の方が、ロボット1台当たりの乳生産は多くなるそうです。行列によって牛が無駄な時間を過ごすことがなくなり、効率が良くなるのでしょう。
・2台の搾乳ロボットが並んでいる牛舎で、どちらかのロボットばかりを利用する牛がいる
牛にも好みがあるのですね(^^)
ロボットの使用頻度に偏りが出ると、経営上良くないので、これを軽減するためにロボットの配置を変えると効果があるようです。例えば片側のロボットが壊れて修理が必要になったとき、そちらにしか入らない牛たちは路頭に迷うことになります。
講師の経験では、L字型に配置していた2台のロボットを、同じ向きに2台並列で並べたところ、牛たちはまんべんなく入るようになってくれたそうです。
・大人でもセミナー中におしゃべり三昧の人がいる(^^;)
気が散りました。。。
講師は、ご自身の家族が搾乳ロボットを用いた酪農経営をしており、ちょくちょくその手伝いをするそうです。そういった、現場感覚が生々しく伝わってきた、良いセミナーでした。
私も、学生や学外で講師をする際には、農場での経験を活かして話を伝えるように、今以上に意識しようと思いました。
搾乳ロボットの知見に加えて、セミナーの技法も学べた、お得な時間でした。