ある酪農生産者から質問が届きました。
「牛乳中のMUN濃度が低すぎると、牛は身体(筋肉)を削って乳タンパク生産をするので、免疫力が低下するのではないか?」
といったご質問でした。
第一胃(ルーメン)内で、エサに含まれるタンパク質が、ルーメン微生物によって分解されると、アンモニアになります。
その時、飼料中にエネルギー(炭水化物、糖質)が適切に存在すると、微生物はエネルギーとアンモニアを利用して増殖します。微生物が増えるということは、菌体タンパク質が増えるということを意味します。
最終的にルーメン微生物(菌体タンパク質)は、ルーメンから流れ出て、牛の小腸で消化・吸収され、乳タンパク質の原料となります。
一方、ルーメン内にエネルギーが不足すると、微生物は増殖することができず、アンモニアはムダになってしまいます。使われなかったアンモニアは、ルーメン粘膜から吸収され、尿素に変換されます。尿素は、牛乳に溶け込んで体外に排出されます。
これがMUNです。
つまり、MUN濃度が高いということは、ルーメン内でムダになったタンパク質が多いことを意味しています。別の視点でみると、微生物が利用できるエネルギーが充分に存在しないといっても良いでしょう。
質問を受けて、大学農場のMUN濃度と乳成分の関係を見てみました。
本学では、飼料の特性から、年間を通してMUN濃度はそれほど高くはありません。
今回ご質問をいただき、酪大農場の過去1年分の乳検成績から、MUN濃度と乳生産の関係について調べてみました。
MUN濃度の平均値は10.1mg/dlでした。
他の乳成分と比較したところ、MUN濃度と乳タンパク質率との間に、強い正の比例関係(相関関係)があることが分かりました(y = 0.0323x + 3.0697; R² = 0.5637)。
MUN濃度が上昇するにつれて、乳タンパク質率も、きれいな直線となって上昇することが分かりました。
乳タンパク質率の平均は3.40%でした。
MUN濃度が低いときは、乳タンパク質率も低かったので、乳牛はMUN濃度が低いとき、すなわち飼料中のタンパク質含量が低いときは、無理せず、それなりの乳タンパク生産に抑えることがわかりました。
牛は、身体を削ってまで乳タンパク質を合成してはいないと考えられます。
続いて免疫との関係ということで、MUN濃度と乳中体細胞数の関係をグラフにしてみました。
乳中体細胞数は、乳腺内に侵入した細菌と闘って死んだ白血球の死骸が、乳中に現れたものです。つまり、この数値が高いということは、細菌感染が起こっていることを意味します。
MUN濃度と体細胞数の間には、きれいな関係は全く見られませんでした。MUN濃度が低くても、高くても、体細胞数は一様に分布していました。
つまり体細胞数(=乳房への細菌感染リスク)は、MUN濃度が低いからといって上昇するわけではないことを、本学の結果は示しています。
MUN濃度が低値となるパターンはいくつかありますが、飼料中のタンパク質とエネルギーのバランスがとれていて、微生物合成効率が最適となり、窒素ロスがほとんどないときにも観察されます。つまり、微生物が思う存分増殖できるように、エネルギーがふんだんに供給されているときです。
免疫システムを適正に動かすためには、相当な量のエネルギーが必要になります。
エネルギーが充足されている時に観察される低MUN現象は、健康状態(免疫システム)は悪影響を及ぼさないと考えて良さそうです。
ただし、ある農場ではプラスの結果でも、別の農場ではマイナスになるということは、現場では往々にして存在します。
本学の結果が、全ての牛群に当てはまるわけではないので、多様な角度からの判断が大切と考えます。