今年の牛舎実験が終わりました。
卒論のまとめのため、連日連夜、学生たちはがんばって分析をすすめています。
そんな中で、PSPSというエサをふるい分けるためのアメリカ生まれのフルイセットでエサの大きさを分類した測定項目があります。
PSPSは、4段構成のフルイで、上段の1段目は目開き19mm、2段目は8mm、3段目は4mm、そして受け皿です。
このフルイを4段重ねて、一段目にTMRなどのエサを載せ、前後左右に激しく揺すります。
そうすると、エサが大きさごとに、4段のフルイに分離されます。
1段目に残るエサは、長い繊維質が大半です。
ウシは草食動物ですが、エサが豊富にあると、この長い部分を残します。
そして、3段目や受け皿に分類される、細かいエサを集中的に摂取します。
これは、私には奇妙な行動様式に思われます。
ウシが草を食べるときは、草原に生えている、ある程度の長さを持った草を食べるというイメージがあるからです。
ですが、実際には、ウシに長い草と短い草をどちらも好きなだけ食べられるように目の前に置いてやると、多くの場合は短い草を好んで食べます。
これはエネルギーの効率という視点から考えると説明が付きます。
同じ栄養素を腹の中に入れるのに、少ない咀嚼回数、すなわち短い時間で、腹の中に入れる方がエネルギー的に効率が良いです。咀嚼するには顎の筋肉を動かす必要があり、この筋肉運動には無視できないエネルギーが消費されます。
襲う側と襲われる側という視点から考えると、ウシは襲われる側の動物になります。できるだけ短い時間でエサを食べ終える方が、ライオンなどの捕食者に捕まるリスクが減ります。
長い草を飲み込むためには、モシャモシャと長時間咀嚼して、飲み込める大きさにまで砕いてやらなければなりません。
こんなメンドクサイことをするくらいなら、短い草の方がパッと食べられて、効率が良いです。
そんな短い草が大好きなウシですが、ルーメンアシドーシス状態になると、普段は残す長い草を好んで食べることが、今年の実験結果からわかってきました。
ルーメンアシドーシスとは、穀物を大量に食べてルーメン内で異常発酵が起きている状態です。
ルーメンアシドーシスになったウシは、少しでも長い繊維を摂取して、反芻を促し、ルーメン環境を健康な状態に戻そうとするようです。
反芻をすると、アルカリ性の唾液が分泌されて、異常発酵で作られた酸を中和してくれます。ルーメン内の酸が中和されることで、徐々に健康な状態に戻っていきます。
暴飲暴食する忘年会シーズンの我々なんかより、よっぽどウシの方が考えてエサを食べているようです(^^;)