今期もコロナ禍のため遠隔授業が多かったですが、僕が担当する実習やゼミは対面で実施する機会をできるだけ増やしました。
暑さのため、後半は長く感じましたが、前学期の授業もようやく終わりを迎えました。
僕の担当科目の一つである乳用家畜飼養学実習では、履修学生にノートパソコンを持ち寄ってもらい飼料設計のデモ実習をやりました。
飼料設計ソフトを用いると、そのエサを与えられたウシがどれだけの牛乳を生産できるかが計算されます。
手順としては、使うエサをリストアップして、次にそれぞれのエサを与える量を決めていきます。
ヒトの食事で例えると、主食をご飯にするか麺にするかといったところから始まり、主催は肉か魚、副菜はほうれん草のおひたしか、ひじきの煮付けか、といったように、組み合わせる食材(エサ)は無数です。
さらに、ご飯の量も、茶わんに軽くよそうのか、丼に盛るのかで違ってきて、その結果、総エネルギー摂取量が変わり、乳生産量も影響を受けるというわけです。
飼料設計ソフトが正確な乳生産量を予測するためには、それぞれのエサの栄養価を飼料設計ソフトに正確に入力する必要があります。
肉一切れのカロリーがどれくらいで、そこに含まれるタンパク質や脂肪が何パーセント含まれているのかを正確に知らなければいけないのです。
エサの栄養価を正確に知るには、まずは、そのエサを乾燥して、1mm以下の大きさに粉砕します。
粉砕サンプルを正確に計量し、試薬を加えたり、加熱したり、乾燥させたりして、分析していくことになります。
しかも、栄養成分ごとに全く異なる手順なので、測定したい項目が増えると分析に要する時間も膨大になります。
そこで、ここ20年くらいで急速に普及してきたのが、近赤外線分析という手法です。
これは、一度の分析で数多くの栄養成分を一括で測定することができる優れものです。
ただ、その原理は独特で、栄養成分を間接的に推定するというものになります。この推定というのがくせ者です。
近赤法は迅速で便利ですが、間接手法なので、分析組織ごとに、出てくる結果が微妙に異なるという欠点があります。
この、栄養成分の値は大きく異ならないし、傾向としては同じなんだけど、それでも絶対値でみると“微妙”に異なるという結果は、現代の飼料分析ソフトを使う際には無視できない差となります。
本学では、一つのエサを2カ所の組織で分析してもらっているのですが、出てくる結果は毎度異なります。
どちらの値をソフトに入力するかで、ソフトが予測する乳量も変わってきます。
多くの飼料設計担当者は、一カ所にエサを分析に出して、その値をもとに飼料計算をするでしょう。
ですが、みなさんが普段使っている値が唯一無二ではなく、全く別の値が大手を振って歩いていることを知っておいて損はないかもしれません。
例えるなら、表向き可愛く可憐な乙女なのに、裏の顔は全く別の人格だったという感じでしょうか(^^;)
間接推定法である近赤法に頼る限り、正確な栄養価は「藪の中」というわけになります。。。