乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

スマート化による農業の進化

現代の酪農、農業では規模拡大や労働力不足から、1人あたりの作業量が増加する傾向にあります。

 

さらに、生産効率:たとえば家畜1頭あたりの生産量、飼料1kg当たりの生産量、畑1ヘクタール当りの生産量、労働者1人あたりの生産量、労働1時間あたりの生産量といった、各単位あたりの生産量を増やすことが必要になります。

ビジネスの現場にも当てはまりますが、生産効率(労働生産性)を上げることが、農場の収益を上げるために不可欠だからです。

 

例えば、これまでは50頭繋ぎ飼い方式の酪農場を夫婦二人と祖父母の4人で管理していたところを、搾乳ロボット2台を入れた120頭牛舎にして1人で管理するといったケースを考えます。

前者では、1人あたりの管理頭数は50÷4で12~13頭でしたが、後者では1人あたり120頭の管理になります。 (計算が複雑なので育成牛などは省きます)

搾乳牛だけでみると、労働生産性が約10倍になった計算になります。

この例で、労働生産性を上げることができたのは、搾乳ロボットという自動化システムを導入したことによります。

 

国内外で農業展示会が開催されますが、昨今の主流は、スマート農業に関するものがムチャクチャ増えてきています。

僕が直近で参加したものでは、農業機械のクボタ社によるスマート農業のセミナーがありました。

無人・自動化トラクターによる熟練者を必要としない高度な作業の省力化、ドローンを使った薬剤・肥料散布、それらのデータを一元管理するシステムなど、スマート農業に関する発表でした。

 

また、トヨタ社の発表も興味深いものでした。

トヨタ社は、伝統のカイゼンシステムを農業の現場に当てはめる取り組みをしていました。

スマートデバイスや紙やホワイトボードなどのアナログを組み合わせて、作業の見える化をし、農場の課題をあぶり出します。

出てきた課題をカイゼンし、労働時間やムダの削減をし、生産性を向上します。

機械中心のスマート農業に比べて、トヨタ方式の意識やソフト面の改善はコストがかかりません。

 

このようなメジャー企業の他にも、牛に装着するセンサーや監視カメラとクラウドを組み合わせた遠隔データ管理システムなど、興味深い展示が多数ありました。

 

ただ、トヨタカイゼンの取り組み以外は、新しいハードの導入だったり、システムを使用するための契約が必要になるのでどうしてもコストがかかります。

つまり、この導入コストを返済し、収益を生み出すためには、システム導入農家は生産性を向上させるか、生産量を増やすことが必須になります。

投資のコストを分析して、自分はそのコストを上回るだけの収益を上げることができるかどうかを考える必要があります。

 

特に機械は何年かで使えなくなります。

5年使えるのか、10年使えるのか、20年使えるのか。

導入コストを、使える年限で割ってやり、1年あたりの費用対効果を計算しなければいけません。

僕の感覚では、機械は10年は持つけど、20年持たそうとしたら、かなりの修繕費が必要になってきます。

 

例えば、200万円の投資を10年で元を取るためには、1年で20万円の利益を生み出す必要があります。

20万円を365日で割ってやると、1日あたり548円になります。

仮に搾乳牛に対する投資だと考えると、548円は乳量が1kg100円だとして5.5kg(5500ml)分です。

50頭の搾乳牛がいるとしたら、1頭1日あたり110mlの乳量が増えれば良いことになります。

この投資をすることで、一頭当たりの乳量が毎日0.1kg増えればペイするということをハカリにかけて、投資に踏み切るかどうかを判断するというわけです。

(実際は育成牛や労働コストなどさらに複雑に考える必要があります)

 

話はややそれましたが、スマート酪農の分野は、従来の農業の技術的な進歩のスピードとは、ケタ違いに速いスピードで進化しています。

生き物や天候相手の農業と違って、工業は機械や数式が相手だからです。

 

僕たちのような教育や普及に関係する立場の人間は、常に情報を集め、最新の情報を提供することが肝要です。

↓さて、これは何でしょう

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