乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

サイロ収穫直後にビニルカバーが膨らんでパンパンになったとき、一体何が起こっているの?

バンカーサイロの一番牧草の収穫が真っ盛りです。


今年は突然のにわか雨が降ったり、春先の干ばつだったりで、例年と比べて大きく良いというわけではなさそうです。

 

さて、先日詰めた1番牧草のバンカーサイロで興味深い現象が起こりました。

 

詰め込んだ翌日、サイロの様子を見に行くとの牧草を覆っているビニルカバーがパンパンに膨らんでいたのです。

 

トウモロコシサイレージだと硝酸態窒素含量が高いときに酸化窒素ガス(NOx)が出る場合があります。このガスは有毒で、ときに人命や家畜の命に関わることもあるほどです。

 

一方、牧草サイレージの場合、そこまで硝酸態窒素含量が高いことは珍しいです。
今回のチモシー牧草も、例年同様なので、そのようなことはないはずです。

 

いつもと違うことがあるとすれば、今回詰め込んだ牧草は、刈り倒した日の夜中に土砂降りの雷雨に当たってしまった高水分のものでした。いわゆる、雨当りだったので、そのことが原因になっているのかもしれません。

 

そこで、サイレージの権威であるN元教授に電話で聞いてみました。

 

先生の見解は次の通りでした:

1 酸化窒素系のガスは一晩でパンパンになるまで作られることはないだろう(もう少しゆっくり発生するはずだ)

 

2 つまり、今回はそれ以外のガスが大量発生したはずである。おそらく、牧草細胞の呼吸による二酸化炭素(CO2)が中心だろう

 

3 詰め込んだ材料草が高水分だったので、牧草細胞が死にきっておらず呼吸を長期間続けているのが原因ではないか

 

4 牧草細胞を早く殺すためには、①乾かす(予乾する)、②収穫時にギ酸をふりかけて強制的に酸性にしてやる、の2つの方法がある


5 呼吸が長期間続いている原因のもう一つの可能性として、詰め込み時の踏圧不足があるかもしれない。詰め込んだ牧草が緻密に踏み込まれていれば酸素が押し出されているので、牧草が長期間呼吸することはできない(酸素が少ないため)。踏み込みが甘いと、サイロ内部に酸素が多く残っているので、牧草細胞は生き続けることができる


6 サイレージ発酵(乳酸発酵)にとって酸素(O2)は不要なので、ある程度CO2が発生することは、嫌気度を高めることになりプラスである。しかし、タイヤが持ち上がるくらいフワフワになっているなら一旦エアーを抜いた方が良いだろう。

 

このようなアドバイスを受けました。

 

牧草の呼吸が続いているということは、牧草中の貯蔵栄養(エネルギー)を細胞が消費し続けていることを意味しています。

牧草細胞の呼吸を速やかに止めないと、乳酸菌や牛が利用するエネルギーがムダに奪われてしまい、栄養価の低い低質なサイレージになってしまいます。

 

高水分の牧草をサイレージに調製する際にギ酸をかける意味がよくわかる事例でした。

高水分の牧草のpHを強制的に下げて、牧草の呼吸を瞬時に止めてやるというわけです。

 

現場経験豊富なOBの先生からも教わることはまだまだたくさんあります。

この情報は現場スタッフとも共有するつもりです。

↓わかりにくいでしょうかね~ この上に載るとエアでボヨンボヨンです