獣医師の知人のお一人から、興味深い質問が届きました。
質問をくれたN獣医師曰く、「実は、暑熱期にはルーメンアシドーシスにならない」という、興味深い解説が、家畜改良事業団が実施している、牛群検定のコメント欄に掲載されていたそうです。
「暑熱期は飲水量が増えるため、多量の水と共に乳酸が下部消化管へ送られてルーメンpHは安定に保たれている。
同時に、ルーメンバクテリアも多量に下部消化管に流されるために、ルーメンバクテリアの密度は希薄になる。
よって、ルーメンバクテリアを増殖させるためには、濃厚飼料の増量が必要である」
というメカニズムだそうです。
この点について、コメントをいただけないというのが質問の内容でした。
極めて興味深い解説なので、本ブログでも紹介させていただきます。
僕のコメントは以下の通りです:
1) ルーメンバクテリアは繊維付着菌、ルーメン上皮粘膜付着菌、液層浮遊菌があります。今回のお話では、液層浮遊菌がルーメンから流れ出る速度は速まるかもしれませんが、それ以外の付着菌群は特に変わらないか、むしろDMI減によって飼料(特にマット部)のルーメン内滞留時間が延びることで、普段よりも流れ出る速度が遅くなるかもしれません。
2) 暑熱でDMIが減少すると①飼料(特にマット部)のルーメン内滞留時間が延長し、②ルーメン微生物が増殖するための基質の流入が減少します。
①のルーメンマットはルーメン微生物の「住宅(+エサ)」に相当し、それがルーメン内に留まる時間が長くなるので、暑熱下でも住環境は確保されると考えて良いでしょう。
②について、牛が食べるエサは、微生物の食料も兼ねています。
つまり、ウシの食欲が減少すると、微生物の食料も不足してしまいます。
微生物の食料を補充してやるには、ウシが食べやすく、発酵の容易な濃厚飼料(デンプンなど)の増量が手っ取り早いです。
微生物が増えると、彼らは住宅であるマット(繊維質)も食べてしまうので、次の段階としてはマットを作るための繊維質の供給も必要になるでしょう。
3) 2)の段階のバランスはデリケートなものであると予測されます。
繊維質と濃厚飼料の給与のバランスや手順が乱れると、発酵酸が過剰に蓄積するルーメンアシドーシスに転落する恐れがあります。
1~3をまとめると、暑熱によって微生物流出速度が増加するという仮説はもう少し検討する必要があるかもしれませんが、濃厚飼料の増給はある程度正しいのではないでしょうか。
この点については、暑熱の本場で活躍するN獣医師の意見をもう少し聞く必要があるかもしれません。
北海道でも暑熱は問題になっていますが、本州ではハンパないことでしょう。
僕も今、暑熱のまっただ中の福岡に出張できています。
外の暑さと、屋内の冷房による寒さと闘っています。
内地の酪農人とウシたちの苦労、相当なものでしょう。。。
↓涼しい屋内で惰眠をむさぼるメンコイワンコたち(^^)