酪農の世界では牧草やトウモロコシ(ここでいうトウモロコシは茎、葉、実をあわせたものです)を、最小の労力やコストで、高品質かつ長期間保存できるような形にするかということが大きなテーマとなります。
牧草やトウモロコシをあわせて粗飼料といいます。
粗飼料は刈り取って生でおいておくと腐るので、貯蔵法としては乾燥させるか、乳酸発酵させるかの2択となります。
後者をサイレージといって、世界的に見ても主流でありながら、良質なモノをとるのが難しい貯蔵法になっています。
サイレージ調製が難しいと書きましたが、基本は単純で、その原則を手を抜かずに忠実に守りさえすれば良いものは比較的容易に作ることができます。
この「基本に忠実にやるだけでよい」ことの難しさは日常生活をしているとたびたび実感します。
英語の学習は10分でよいから毎日やろう
使った端から片付ければ机の上が散らかることはありません
夜9時以降の間食、特に炭水化物はやめましょう
週に2日は休肝日を設けましょう
などなど、手を抜きたい誘惑、ガマンできない誘惑は、僕たちの身の回りには無数に存在します。
さて、サイレージ調製(サイレージをつくることを調製作業といいます)での誘惑は何でしょうか?
その前に、良質サイレージ調製のポイントを知る必要があります。
最も重要なことは貯蔵するときに酸素を追い出すことと、適度な水分に乾かすということです。
乳酸菌は、酸素があると活動できず、水分が多すぎると酪酸菌のような悪玉菌が増えるからです。
今回は酸素を追い出すことに絞ってお話ししたいと思います。
サイレージ調製の際に酸素を追い出すためには、材料となる牧草をしっかり短く切ることと、サイロに詰め込む際にガッツリ踏み固める(踏圧する)ことがポイントになります。
短く切った牧草をしっかり踏めば、ガッツリ踏み固められて、酸素を除去することができます。
逆に長い繊維だと、踏んでもフワフワで酸素の除去は難しいです。
短い繊維でも、踏む時間が短ければ酸素は除去されません。
基本に忠実に酸素の除去がしっかりできると、甘く美味しい匂いのするサイレージができあがります。
畑で収穫する際に短く切ることと、サイロでトラクターでしっかり踏むことは、行為としては簡単です。
ですが、それをするためには、少しだけ時間をかけなくてはいけません。
ガマンできない時間ではないのですが、ほんの少しストレスのかかる時間が必要です。
例えるなら、ボトルから醤油差しに、醤油を注ぐ場面をイメージしてください。
醤油を、糸を引くように、ゆっくり注げばこぼれることはありません。
この行為自体も難しいものではありません。
ですが、もっと早く注ぎたくて、欲張るとこぼしてしまいます。
牧草の収穫もこんな感じです。
畑からの収穫をある程度ゆっくりやれれば短くきちんと切れるのですが、もっと早く作業をしたくなって、トラクターの速度を上げると切断長が長くなってしまいます。
踏み固め作業も、次のダンプが来たときに待たせてでも踏めれば完璧ですが、どうしても踏圧作業を1分速く切り上げてしまいます。
このほんのちょっとのさじ加減が、積もり積もって悪い結果になってしまいます。
(僕が勝手に付けた「酪農はかけ算」の法則です)
一番草の収穫、北海道では終盤戦ですが、ほんのちょっとの誘惑に負けずに基本に忠実に作業すると見違えるほどよいサイレージができること請け合いです。
良いサイレージはヒトもウシもハッピーにします。