「酪農プラス」という、酪農関連のHPが大学で運営されています。
そこに、質問コーナーというのがあって、市民からの疑問に大学の教員が回答しています。
酪農経営にプラスになる情報を発信!| 酪農ジャーナル電子版【酪農PLUS+】
今回、酪農家から、私に質問があったので、その一部をご紹介します。
質問
「水溶性タンパクの高い高水分サイレージに即効性のあるエネルギーとしてブドウ糖がいいと聞きますが、給与量はトップドレスで上限は何グラムでしょうか。
やりすぎでアシドーシスにはならないのでしょうか。実際、ブドウ糖を与えてアンモニアの無駄が減ったとかデータとしてあるのでしょうか」
回答
これは、飼料中タンパク質とエネルギーのルーメン内における「分解同期化」に関する質問になります。微生物が、自らのタンパク質を合成するためには、タンパク質の材料となる窒素源、一般的にはアンモニアが必要です。
一方、材料であるアンモニアがあっても、組み立てるためのエネルギーがないとタンパク質は合成できません。
つまり、タンパク質が分解されて、アンモニアになったときに、微生物が利用可能なエネルギーがあると、微生物は自分たちの体(すなわち微生物タンパク質)を作ることができます。
これが、タンパク質とエネルギーの「同期化理論」になります。
水溶性タンパク質は分解速度が速いので、これらを豊富に含む高水分サイレージや放牧地草は、牛に食べられるとルーメン内で急速に分解されて、アンモニアになります。
アンモニアがルーメン内で急増するタイミングに合わせて、エネルギーをルーメン内に用意してやるには、二つの戦略が考えられます。
一つ目は、水溶性タンパク質と同程度の速い分解速度を持つ水溶性炭水化物を与えるという戦略です。
質問にあったように、ブドウ糖などの糖類は分解が早いので、高水分サイレージなどと同時に給与すると、ルーメン内で同期化されます。
二つ目は、分解の遅いエネルギー源を使う場合、牛に与えてからルーメン内で分解されるまでの時間を逆算して、高水分サイレージなどを与えるよりも前に牛に食べさせておくという戦略です。
たとえば、食べられてからルーメン内で微生物が利用可能なサイズ(状態)に分解されるまでに1時間かかるエネルギー飼料であれば、高水分サイレージを与える1時間前に牛に食べさせておきます。
そうすると、1時間後に高水分サイレージを与えた頃には、ルーメン内でエネルギーが良い塩梅に準備されているので、アンモニアとエネルギーが同期化します。
ルーメン内の分解に要する時間は、エネルギー飼料が圧ぺんトウモロコシなのか、ビートパルプなのか、はたまた粗飼料なのかによって異なってきます。この点については、確認が必要です。
ブドウ糖をどれくらい与えるとアシドーシスになるかといった具体的な事例は、過去の研究論文で、探しきれませんでした。
参考までに、860g/日の砂糖を挽き割りトウモロコシと置き換えて、分娩直後の泌乳牛に給与した試験(Penner and Oba, 2009)では、砂糖給与によってルーメンアシドーシスが改善される傾向がみられたことを報告しておきます。
↓卒論実験風景:フリーストールでの給与試験