ここ10年くらい、農水省が力を入れている技術・普及に、飼料米があります。
国民の米の消費量が減り、収入源が減少する水田農家に対し、エサとして米を作り、所得保障をするというシステムです。
この技術は補助金の投入によってなりっていますが、その話しは置いておき、米の飼料としての特性について紹介します。
米は未加工であれば、牛に与えても未消化のまま糞に出てしまいます。
丸ままの「生米」、私たちも食べたいという気持ちになりませんよね。
そんな米ですが、2ミリ以下に粉砕すれば、飼料用のトウモロコシ子実(圧ぺんトウモロコシ)と同等かそれ以上の消化性を発揮します。
一方、米はそもそも比重が重いです。
といだお米は、炊飯器の底に沈みますよね。
したがって、粉砕したからといって、米を単体で大量に給与すると、牛の第一胃(ルーメン)から未消化のまま通過してしまう恐れがあります。
牛に食べられた米が、第一胃の底に沈み、胃にたまっている液体と一緒に流れ出てしまうからです。
したがって、粉砕米を与えるときは、牧草など繊維質の豊富なエサと混合して与えることが理想的です。こうすると、ルーメン内に繊維の塊(ルーメンマット)ができるので、その中に米粒子が閉じ込められ、ゆっくり消化されます。
仮に粉砕米が、ルーメンから未消化のまま流出したとします。
米粒子が、小腸に届くと、米に含まれるデンプンが小腸で消化・吸収されます。ただし、小腸のキャパシティを越えた大量の米粒子がなだれ込むと、消化しきれない米粒子が小腸を通過して、大腸に到達してしまいます。
大腸には、ルーメンと同様の微生物が生息しており、デンプンを急速に分解、発酵します。
そうすると、酸が生成され、大腸内のpHが低下します。
過度にpHが低下する状態を、大腸アシドーシスといいます。
大量の米粒子が大腸に到達すると、大腸アシドーシスのリスクが跳ね上がります。
大腸粘膜は、ルーメンほど強くないので、大腸アシドーシスになると粘膜は簡単にダメージを受けます。
粘膜がダメージを受けると、粘膜細胞間の結合が緩んでしまいます。
細胞間の結合が緩むと、普段は侵入しない微生物や毒素が、大腸粘膜を通り抜けて、体内に侵入します。
こうなると、牛は様々な悪影響を受けて、体調不良になってしまいます。
したがって、大腸アシドーシスは、飼料給与メニューを担当するものとしては、最も注意しなくてはいけないことの一つです。
ということで、発酵の良いデンプンを含む飼料米を給与するときは、高エネルギーである特性を活かすためにも、ルーメンマットを意識した飼料メニューが求められます。
実は、今日のテーマは、本学2年生の学生からの質問が発端でした。
その学生のお父さんが、兵庫県で獣医師として働いているそうです。
お父さんの現場での疑問を、私に聞きに来てくれたという訳です。
意識が高く、熱心な学生からの質問、教員としては嬉しい限りです。
どんどん訪ねてきて欲しいです。