乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

厚切りステーキ肉と飽和脂肪酸

最近の僕の流行に、厚切りステーキを焼いて食うというのがあります。


カミサンは牛肉が苦手なので、ステーキを焼くときは僕とムスコでいただきます。

買ってくるステーキ肉は、定番の西友のアンガスビーフ
100gで200円を切るお得なお値段の、真っ赤なUSビーフです。

 

ステーキの焼き方は夏は外で炭火が定番ですが、冬は屋内なのでいろいろと試行錯誤をしてきました。


その結果たどり着いたのが、YouTubeでどなたかが取り上げていた、100度のオーブンで低温調理したものを最後にさっとフライパンで焼くというものです。

 

これだと、中がレアのステーキが超簡単に焼けます。
興味のある方はお試しあれ。

オーブンに入れる時間を肉の厚さによって調節します。途中で一度ひっくり返しを入れながら、トータルでだいたい20~30分くらいでしょうか。
フライパンで焼く時間は、焦げ目を付ける程度で両面を一瞬だけ焼きます。

焼き終わった肉を休めている間にソースをちゃっちゃと作ってしまいます。

 

カミサンには、鶏の胸肉を皮面がカリッカリになるように焼いてあげます。
こちらは、イケメンで僕の大好きなコウケンテツさんのYouTubeで紹介されていました。

 

と、そんな安価な牛肉ライフを送っている我が家ですが、先日、近所のちょっと高めの焼き肉店に出かける機会がありました。

そこで、おねだりするムスコの根気に負けて、高級和牛カルビを一皿だけ頼んであげました。


僕も食べたいのですが、牛脂が多くなるとお腹を下すので、自分は豚ホルモンでビールです(^^;)

 

霜降りの入った和牛のおいしさがハンパなかったようで、ムスコ君、それ以来スーパーの肉売り場に行くと和牛肉を見つけてはよだれを流しています。

 

僕は、牛の栄養に携わる身ですので、牛脂の旨みについて思わざるを得ません。

牛脂には不飽和脂肪酸が少なく、飽和脂肪酸や1価の不飽和脂肪酸(オレイン酸)が多く含まれるという特徴があります。

飽和脂肪酸を多く含む脂肪は硬い特徴があり、その代表格は牛乳で作るバターです。冷蔵庫から出したてのバターはガチガチでパンに塗るのも一苦労です。

 

一方、ウシのエサである牧草やトウモロコシ、麦には不飽和脂肪酸が多く含まれています。サラダ油やオリーブ油のように、植物由来の油は液状でサラサラです。
魚の油も同様で、サバ缶は不飽和脂肪酸を多く含んでいるので、寒い冬でも缶詰を開けたときに油が固まっているということはありませんよね。

 

飽和脂肪酸を多く含む脂は、脂肪の融点が高いということになります(不飽和脂肪酸を多く含む植物油は融点が低い)。

 

これには、ルーメン微生物による不飽和脂肪酸への水素添加という仕組みが働いています(何と、ここで得意のルーメンの話しにつながります)。

 

不飽和脂肪酸には炭素と炭素を結ぶ結合に二重結合というものが含まれています(飽和脂肪酸には二重結合はありません)。


二重結合の数が一つの場合一価といい、2個あるときは2価といいます。
先のオレイン酸は、二重結合が一つしかない(飽和脂肪酸に近い)脂肪酸になります。

不飽和脂肪酸の二重結合に対して、微生物たちは水素をくっつけて一重結合(飽和脂肪酸)に変えてやります。なぜなら、不飽和脂肪酸は、ルーメン微生物にとって毒だからです。

 

ルーメン微生物たちが自分たちの生息環境を守るために、不飽和脂肪酸飽和脂肪酸に変えてくれるわけですが、その結果が、牛脂の旨みにつながっているというわけです。

 

牛脂とくに霜降りは旨みが強いのですが、USビーフにはその霜降りが皆無です(少なくとも僕が買う安い牛肉には)。
霜降りがないので、強烈な旨みは少ないですが、それでも良く噛んでいると「肉を食ったー」という満足感は得られます。

 

音楽をかけ、ビールを飲みながらステーキを焼いたり、ソースを作ったりというのも楽しい休日のマイブームから、ルーメン微生物の神秘的な活動に思いを馳せました。

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