前回解説した、油や脂は別の言い方では中性脂肪と呼びます。
中性脂肪には、脂肪酸という物質が3個くっついています。
脂肪酸は炭素がいくつも繋がった構造をしているので、炭素の鎖=炭素鎖とよばれます。たとえば、サラダ油に多く含まれるリノール酸は炭素が18個くっついています。
今日はこの脂肪酸とエネルギーや機能についての話をしましょう。
脂肪酸とエネルギーの関係
我々がエネルギー(身体を動かす燃料)として利用するのがATPです。
細胞内でATPを作るとき、炭素2個の物質(アセチルCoA)が必要になります。炭素がたくさん繋がっている脂肪酸からは、このアセチルCoAが何個も作ることができます。たとえば、先ほどのリノール酸からは9個です。
脂肪酸が細胞内でチョキチョキと切られて、アセチルCoAがたくさんできる→アセチルCoAを使って、ATPがたくさん作られる→ATPからエネルギーが大量に産み出される、という流れが体内で起こります。
中性脂肪は、この脂肪酸を3個も備えているので、エネルギーの塊とみることができます。油のカロリーが高いということは、このようにエネルギーが蓄えられているからなのです。
脂肪酸の役割はエネルギーだけではありません。
脂肪酸を構成する炭素の数や、炭素と炭素の結合の仕方によっていくつもの種類があります。特に体内で作ることのできない、あるいはごく少量しか作られずに不足しがちである脂肪酸のことを必須脂肪酸といいます。
魚や亜麻仁などの雑穀に多く含まれる脂肪酸はオメガ3脂肪酸といって、その機能が注目されている必須脂肪酸です。
オメガ3脂肪酸は体内で利用される過程で、抗炎症性の物質に変換されます。この物質は過度の炎症を抑えてくれます。さらに、オメガ3脂肪酸は卵巣にも作用して、卵子を充実されたり、妊娠にプラスに働くホルモンを作ります。牛の研究では、オメガ3脂肪酸を給与することで、早期の流産が大きく減少したとする結果が得られています。
一方、サラダ油に多く含まれるリノール酸はオメガ6という必須脂肪酸です。
こちらも卵巣に作用して、排卵を促したり、出産時に効果を発揮するホルモンを作ります。
また、免疫的にはオメガ6は炎症を促進する物質を生み出します(オメガ3とは逆の作用です)。
牛の研究では、オメガ6脂肪酸が不足すると分娩後の子宮炎が増えたという結果がありました。分娩で傷ついた子宮に雑菌が侵入した際に、オメガ6が不足していたことで炎症を起こすことができず雑菌と戦うことができなかった。すなわち免疫機能が低下してしまったと考えられます。
私はウシの論文しか読んでいないので、ここからは推測になりますが、オメガ6脂肪酸は炎症促進物質を作るので、ひょっとしたらヒトの世界でのアレルギーなどに関係しているかもしれません。かゆみ=炎症なので、かゆみを促進する可能性があります。一方、オメガ3脂肪酸は炎症抑制作用を持っているので、アレルギー体質の人は意識して摂取すると効果が現れるかもしれません。
私は花粉症持ちなので、来春は自分の身体で実験してみようと思います。
子宮-卵巣系にはオメガ3,オメガ6の両脂肪酸が関係してることは、ウシもヒトも共通しているでしょう。ダイエットや健康を意識するあまり、脂質の摂取を控えすぎると、食事からしか供給されない必須脂肪酸が不足してしまい、卵巣機能に悪影響が出てしまうかもしれません。
何事もバランスが重要です。
特にオメガ3脂肪酸は、脂質摂取過多の現代人であっても不足しがちな数少ない栄養素です。魚や青物野菜、雑穀類に豊富に含まれますので、普段から意識的にこれらの食材を摂取することが求められます。
魚や雑穀って、もろ和食ですよね。
和食って、知らず知らずのうちに理想的な栄養を摂ることができる、素晴らしい食文化です。