重松清さんの作品は、「とんび」「熱球」「愛妻日記」「ビタミンF」など何作か読みました。
彼の家族の描写が読むたびに心に染みいります。
今回、読み終えたの「幼な子われらに生まれ」は、子連れの妻と再婚し、前妻との間に生まれた娘と面会を続ける父親が主人公です。そして、現妻のお腹の中では主人公との間の子ども生まれ落ちるのを待っています。
まるで、どこかの誰かのようなシチュエーション。
作品の4分の3は、とても重苦しいです。
特に、連れ子の長女と継父である主人公の相容れない関係が、読んでいて苦しくなります。
リアル当事者にとっては、立場こそ違え、似たような状況は必ず経験するのではないでしょうか。
継父の苦しみを誰にも言えず、家庭と職場ではなんともない顔をして過ごさなくてはいけないストレスを抱え、主人公は風俗に癒やしを求めます。
子を捨てた父親に会いたいと繰り返す連れ子の長女と、これまで面会をさせてこなかった主人公夫婦。
離婚した別居親との面会をさせないことが果たして誤りなのか、この作品に出てくる連れ子に対して全く関心を示そうとしない実父を観ているとわからなくなります。
すくなくとも現場を知らない識者の方が言うきれい事だけではすまないことがわかります。
苦しみによどんでいた主人公と家族ですが、「幼な子」が生まれ落ちる日が近づくにつれ、雲の間から陽が差すように、それぞれの家族にも希望の光がみえてきます。
少しずつ、ほんの少しずつですが。
聖母のような風俗嬢と、「聖母」の前で自らが幼な子に生まれ変わる主人公の関係を、僕は笑うことができませんでした。
ステップファミリー、離婚後の面会交流で悩んでいる方(親であっても、子であっても)にとっては、救いになるとは言いきれませんが、一読の価値がある作品でしょう。
ステップファミリーの当事者(親も子も)が苦しみや悩みを共有する場や相手が身近にないのは、切ない現実です。
話題を呼んだドラマ「俺の家の話」でも、面会交流やステップファミリーが描かれていました。そのことを作品に盛り込むのが、とても素敵だなと、僕は受け止めました。(ちなみに映画版「幼な子われらに生まれ」では、宮藤官九郎が別居親を演じているようです)
きれい事だけでない、苦悩を抱えていることを、あのドラマのように明るく共有できるといいのですが。
日本では厳しいだろうなあ。。。
↓悲しかろうと、コロナがあろうと、牧草の収穫は待ってくれません