乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

食えるウシと食えないウシ

ウシは満腹までエサを食べるとルーメン(第一胃)のある左側の腹がパンパンに張ります。丸いお腹になるというわけです。

 

一方で、腹が減ると、左側の腹がくぼんできます。
肋骨と背骨(腰椎)が出っ張って、腹だけが落ちくぼむような見た目になります。

 

同じようなエサを同じ量与えているにもかかわらず、Aという牧場では前者の丸いお腹のウシが多数いるのに対して、B牧場では腹が落ちくぼんだウシが多いといったように、違いが目立つことも珍しくありません。

 

このような違いは一体どこからやってくるのでしょうか?

この問に答える前に、ウシにはもう一つの「満腹」があることを知る必要があります。

 

ここまでにでてきた「満腹」は、文字通りの満腹で、腹の中にエサがパンパンに詰まっている状態を指します。


これを物理的な満腹と呼びます。

 

ウシには(ヒトも同じでしょうが)、もう一つの「満腹」が存在します。

それは、化学的(代謝的)な満腹です。

 

ヒトで例えるなら、回転寿司に行って皿の枚数を競うような食べ方をするときは、前者の物理的な満腹です。

 

一方、チョコレートやケーキなどは、一つ一つの大きさはたいしたことなくても、何個も食べられません。
霜降りの牛肉なんかも(僕は食べる機会がありませんが・・)、量を食べるのはつらいですよね。

これらが化学的な満腹にあたります。

 

栄養の要求量の多いウシ、すなわち高泌乳牛は、大量にエサを食べないと自らが必要な栄養をまかなうことができません。

このようなウシでは、大量の栄養をゲットするために、物理的な満腹になるまで食べ続けます。

つまり、限界まで食べるということになります。

腹がパンパン状態の限界まで食べられるエサは、食べやすいエサ、おいしいエサの可能性が高いです。

 

一方、乾乳前期の牛や低泌乳牛では、必要な栄養量が少ないので、限界まで食べる必要はありません。

これらのウシに対して高栄養濃度のエサを与えると、すぐに食欲が満たされてしまいます。

お腹がパンパンにならなくても食べ終えるというわけです。

十分なだけのエサを食べ終えたばかりなのに腹の落ちくぼんだウシがいる場合、少量でも栄養が足りる状態になっている可能性があります。

 

おいしいエサを腹いっぱい食べるのは一見良さそうですが、腹パンパン牛群で注意が必要なことがあります。
それは、食べたエサの消化が悪いと、腹の中にエサの塊となって長時間たまってしまうことがあります。
ルーメンの便秘と言ってもよいかもしれません。

こんなときも、ウシの外見を見るとパンパンのお腹になっています。

 

食えるウシやエサ、食えないウシやエサ

この違いはとても奥が深いですね。

 

こんな話しを、仕事仲間の獣医師とリモートでディスカッションしました。

楽しい刺激に満ちた時間でした。

 

↓めんこい我が家のミカンちゃん

f:id:dairycow2017:20210830222253j:plain