乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

peNDFとルーメンマットの関係

乳牛栄養学の大先輩と専門的なディスカッションをする機会がありました。

それは、物理的有効繊維(peNDF)についてです。

 

「ウシは、反芻をすることで、唾液をルーメン(第一胃)に送り込み腹の調子を整えています。

唾液はアルカリ性なので、胃薬と同じ効果があります。

すなわち、酸(ヒトの場合は胃酸、ウシの場合は有機酸)を中和して、胸焼け(?)を抑えてくれるのです。

 

peNDFは、繊維の長さや堅さを表す指標で、これが一定以上飼料に含まれていると、反芻が促され、ルーメンの健全性が保たれます。

健全なルーメンの中には、peNDF繊維のからまり合った巨大な固まり、ルーメンマットが形成されます」

私の博士論文のテーマは、このルーメンマットとpeNDFの関係について研究を深めたものでした。

 

今回のディスカッションの中心は、反芻を促すのは、ルーメンマットなのかpeNDFなのか、どっちなのだ?!というものでした。

 

冒頭の説明(「 」内)にあるように、AはBである、BだとCになる、Cとなれば最終的にはDになる、という説明が世の中では一般的です。

あたかも100%この通りに、段階的に進んでいく、といったような。

 

「あいまい」はできるだけ排除されて、情報は伝わっていきます。


たとえば、A国はひどい国だ、B国は日本バッシングがひどい、などはよくある報道です。

ですが、実際にその国に行ってみると、なんてことなく普通に市民がハッピーに暮らしているということも珍しくありません。

実際に、ぼくも日本との関係が険悪と報道されているときの中国に行ったことがありますが、あまりにのんびりしていて逆に驚いた経験があります。

 

研究のテーマにも、これが当てはまっていました。

当時、「peNDFをウシに食べさせると、ルーメンマットができ、反芻が生じて、ルーメンが健康になる」といった、一方向の理論が広く普及していました。

 

ですが、日々研究していると、そう単純でないケースが目にとまるようになってきました。

 

そこで、僕たちの研究室では、次のよう仮設で研究を重ねました。

 

・peNDF含量を下げるとルーメンマットができないのか、

・peNDF含量が低すぎてルーメンマットができないといわれるエサを大量に与えるとき、どうすればルーメンの健康が損なわれないのか

・peNDF含量が高いとルーメン環境にとって問題になることはないのか

 

詳しい結果は、いくつかの拙著をご覧ください。

ザックリいいますと、原則的にはpeNDFは反芻を誘発しますし、ルーメンpHを上げる方向に作用しました。

ですが、peNDFと反芻時間について、きれいな相関関係(Aが増えるとBも増えるといったシンプルな関係)を得られませんでした。

このことから、僕たちはpeNDFの原則的な効果と、それ以外のウシの不思議な効果が混ざり合って、反芻やルーメンpHが調節されていると推測しました。

不思議な効果の一つにルーメンマットもあるというのが論文の柱でした。

 

「常識」と思われていても、必ずしも「真実」ではないことが、ウシの世界にはいくらでも転がっています。

毎日、ウシの不思議に接して、ワクワクする研究生活を送っています。

 

こういった研究上のディスカッションは刺激に満ちていますし、新たな発想をもたらしてもくれます。

世代の離れた、目下の自分に質問してくれた大先輩もカッコよかったなあ。

 

↓エサをPSPSというフルイでふるって、分離することでpeNDFを計測します。左から3つがpeNDFに分類されます。

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