乳牛と酪農を科学する

乳牛と酪農を科学する

乳牛の栄養や酪農システムについて大学教授がつぶやきます

畜産の研究のバランス感覚 現場と研究室のはざま

今日、嬉しい電話が届きました。

 

数年前から研究をともにしてきた、宮崎県の獣医師A先生から電話があったのです。

 

この春から、仕事を続けながら、宮崎大学の博士課程に入学したという連絡でした。

彼は、牛の治療や飼育管理に、私が専門とする研究の視点を盛り込んで、独自の技法を開発しました。昨年は、一緒に共同研究を行いました。

 

その新技法を、さらに発展させるべく、大学院に進学したそうです。

現場での経験に、研究室での活動をプラスすると、重厚な研究になりそうです。

わざわざ、そのような報告をしてくれたことに、とても嬉しい思いがしました。

 

現場と研究室のどの辺に軸足を置くかということについて、先日、考えさせられることがありました。

 

酪農関係のセミナーに参加し、二人の講師の話しを聞いてきました。

ベテランの講師と、若手講師でした。

二人とも同じテーマで話をしました。

後述しますが、事務局も、かぶらないテーマを選んであげれば良かったと思いました。

 

ベテランの講師は、現場を回る中で、農家が困っている事柄を取り上げて、研究を重ねてきました。

アメリカの研究論文の結果は、実験農場で得られた結果なので、日本の農家にそのまま当てはめると、理想と現実のギャップが生じます。

 

規則正しい生活をしましょうとか、よる何時以降は炭水化物をとらないようにしましょうとか、良いのはわかっているけど、できないよねー、というような事ってありますよね。

酪農の研究論文でも、そのような事ってたくさんあります。

研究結果から良いことが明らかだけど、それを実際にやる農家からしたら、負担が大きい事って多々あります。

 

ベテラン講師は、研究から得られた理想と、現場でも対応可能な、折衷案を題材に、実証試験をおこない、そこそこ使える成果を得たという報告をしました。

 

研究に、人の心が取り込まれている、といった感じでしょうか。

 

一方で、若手講師の方は、独自の研究も混ぜながら、海外文献の情報提供がメインでした。研究の結果から、このようにやることが理想的です、みたいな流れでした。

 

テーマがかぶっていたのが気の毒でしたが、年季の違いや、現場経験の乏しさが表れてしまっていました。はっきり言って、レベルの差がくっきり示されました。

 

私たちのように畜産の研究をする人間にとって、生産者の身になって考えるというのは、忘れてはいけないことです。


直接現場に出ることができなくても、机上の理論だけで、話しを完結してしまうのは、生産者サイドからは共感が得られないでしょう。

 

一方で、現場重視が極端で、研究から得られた科学的な情報を盛り込まずに持論を展開する人にも出会います。日本の、地道な研究をはなからバカにしているような人も少なくありません。

 

研究者や指導的立場にいる人は、最新の研究と現場のニーズを、マッチングすることが求められます。

生産者をレストランに訪れた客になぞらえると、研究者は、食材を料理して提供する、シェフの役割です。

食材(現場経験)だけでも、料理の技法(研究の知識)だけでもうまくありません。

 

そういった意味でも、現場の経験を研究分野と融合させようという、宮崎のA先生のチャレンジは楽しみです。


彼には、小さなお子さんもいますし、仕事と学生の両立はムチャクチャ大変だけど、その頑張りには敬意を表したいと思います。

 

お天道様は観てくれているので、努力は必ず実を結ぶはずです。

 

↓大学構内でキツネの親子が遊んでいます

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