中学くらいの理科で習う実験方法に、クロマトグラフがあります。
色の付いた何種類かの液体を溶かした溶液を用意します。
そこに細長い短冊状の紙(ろ紙)を浸してやると、紙の上の方に色水が上がってきます。
色水の種類によって、紙のどこまで上昇するかが異なります。
例えば、赤い水は紙の上の方まで到達し、青い水は途中で止まり、下の方に黄色の水が見える、といったような、結果が得られます。
これにより、3種類の色水が溶液中に混合して溶かされていたことがわかる。
こんなふうに、溶液中に混合して溶けている物質を分離して取り出す分析手法をクロマトグラフと呼びます。
今年の卒業研究では、ルーメンの発酵について測定しました。
ウシのルーメン(第一胃)内部では、ウシに食べられたエサが、ルーメン内に生息する微生物によって分解されます。エサが分解される過程で、揮発性の発酵酸(有機酸、VFA)が生成されます。
このガスの量や溶け込んでいる比率が、エサの種類、ウシや微生物の健康状態によって様々に変化します。
つまり、ルーメン液に含まれる発酵酸を分析することで、牛が健康であるか、与えたエサが消化され乳生産に利用されているか、といった有益な情報を得ることができます。
このルーメン液ですが、様々な有機酸が、異なる濃度で含まれています。
それを分離して、それぞれの濃度を取り出す手法にクロマトグラフを使います。
先ほどの理科の例は、紙を使って対象となる物質を分離するので、ペーパークロマトグラフとよびます。
私たちがルーメン液を分析する際には、紙ではなく、ガスを使って分離するガスクロマトグラフ(ガスクロ)という手法を用います。
濾過したり、酸と混合て前処理したルーメン液を、ガスクロの機械に1マイクロリットルという、ごく少量注入します。
ガスクロの内部には、カラムという細長い管が入っていて、カラムは100度以上の高温に熱せられています。
ガスクロに注入されたルーメン液は、高温のカラムの中を通っていくときに、瞬時に蒸発し気体となります。
気体となった有機酸は、分子の小さなものから順にカラムの中を通り抜けていきます。
カラムを通り抜けるスピードは、分子量の大きさによって決まり、小さなものほど早く通り抜けます。
カラム末端部分には検出器があり、そこにカラムの中で分離された各成分が、次々と流れてきます。検出器では、各成分の濃度が電気信号に変えられて、データとして表示されます。
私たちは、ルーメン液に含まれる、炭素数が2個(C2)の酢酸、3個のプロピオン酸、4個の酪酸、5個のバレリアン酸(吉草酸)、6個のカプロン酸を分析します。
ガスクロでは、求めたい有機酸全てを含む標準液を用意します。標準液に含まれる有機酸の濃度は、あらかじめ計算しておきます。
標準液とルーメン液サンプルを、それぞれガスクロにかけて、その結果の比から濃度を計算します。
ルーメン液に含まれる有機酸は、それぞれ個性的な匂いの持ち主で、吉草酸などはクサい足の臭い成分だそうです(^^;)
今年の、卒論研究ではサンプルの前処理方法がうまく行かず、結果を得るまでにずいぶんと失敗を繰り返しました。
学生も私も失敗の連続に苦労を重ねました。
それだけに、卒論の締切に分析が間に合い、充実感もひとしおでした。
理科の実験、世の中いろいろなところで、応用されています。
↓ガスクロの結果は紙でプリントアウトされます。