脂肪酸とは、炭素と水素がいくつもつながった物質で、中性脂肪の材料となります。
中性脂肪は、脂肪酸が三つくっついてできます。
酪酸は、炭素が4個くっついた脂肪酸で、比較的小さな分子です。
小さな分子なので、空気中にも揮散します。
空気中に揮散するということは、匂いの元にもなります。
酪酸はとてもクサイ物質で、刺激的な酸臭があります。
一方、酪酸はヒトやウシの健康で、近年注目されています。
酪酸は腸の粘膜を強化・修復し、免疫力を高める効果が認められているからです。
病院で処方されたり、薬局で売っている整腸剤では、乳酸菌やビフィズス菌などが有名ですが、酪酸を作る酪酸菌も使われています。(宮入菌というのは酪酸菌です)
酪酸は、下痢や便秘などで傷が付いたり、悪玉菌が優性になった腸内環境の健康を取り戻す作用が期待されるからです。
一方、乳牛でみた場合、酪酸には乳生産にも効果を発揮することが確認されています。
今回アメリカの学会誌に掲載された私たちの論文では、その辺のエビデンス(結果)をまとめました。
私たちの昨年の試験では、高泌乳牛に酪酸を添加することで、乳脂率が増え、乳脂補正乳量も増加しました。
乳脂肪は乳腺細胞で作られますが、酪酸は乳脂肪合成の材料として利用されたためであると考えられました。
補足ですが、酪酸を与えすぎると、ケトーシスという病的な状態になる恐れがあります。ケトーシス牛は、ボンヤリとした慢性的体調不良状態になるので、深刻な病気を引き起こす可能性が飛躍的に高まってしまいます。
今回、私たちが給与した酪酸レベルでは、ケトーシス発症にはいたらず、プラスの効果のみが確認されました。
乳脂肪生産の向上以外にも、興味深い結果も認められました。
酪酸を与えたグループでは、乳中尿素態窒素(MUN)が低下しました。
MUNというのは、ルーメン内で無駄になるタンパク質がどれくらいあるかの目安として使われます。
MUNが高いということは、せっかく高価なタンパク質をエサとして与えても、ウシ(正確にはルーメン微生物ですが)に利用されずに、オシッコや牛乳中に排泄されてしまっていることを意味します。
逆にMUNが下がるということは、タンパク質飼料の利用効率が上昇し、酪農生産にプラスの効果をもたらします。
酪酸を与えるとMUN濃度が低下するメカニズムについては論文のの中で考察ました。
酪酸は匂いがキョーレツなので、その扱いや加工法には工夫が必要です。
今回私たちが用いた酪酸製剤はスペイン産で、臭いを抑える加工がなされたものでした。
酪酸の最大の弱点であった匂いを軽減することで、ヒトの操作性やウシの嗜好性が改善され、乳生産や飼料効率を向上させることができました。